BUDDY 4
したがって、士郎は何かしらの糧がなければ存在できなくなるということ、……なのか?
確証はない。
だが、このままでは、こいつは消えてしまうのではないだろうか?
すでに輪廻からも外れている。
ということは、この衛宮士郎は、もう……?
「いや、べつに、こいつがどうなろうと…………」
知ったことではない。勝手に転がり込んできたのだ、自分の尻拭いは自分でやってもらわなければ。
私が手を出すこともないはずだ。
こいつは、自分で…………。
「ああ、クソッ」
ぐ、と士郎を抱きしめる。
魔力を与えればいいのだろう、これで事足りる。
生前、こいつが未熟であったときには、毎夜こうして魔力を得ていた。それを今度は私が施すだけだ。同じことをすればいい。同じ、こと……、
「……では、足りない!」
ああ、まったく、最悪だ。
なんだって、こんなことまでしてやらなければならないのか!
士郎の頬に片手を添え、親指で唇をこじ開ける。力なく、かぱり、と開いた口を己のそれで塞いだ。
人工呼吸的なもので済めばよかったのだが、あいにくとディープキス的なものでなければ間に合わない。すでに意識が失われている士郎に経口摂取も難しいかと思ったが、こく、と喉を潤すように動かした。
存外、こいつはしぶといのかもしれない。無意識下でも生きる糧を得ようとしている。
少し、気分が良かった。
衛宮士郎が死よりも生きることに縋っていることに。
ああ、いや、もう人としては死んでいるのだが……。
それでも、在ろうとしていることがわかる。
ならば、私は、そんなお前の糧になってやろう。対価はそのうち請求する。とにかく今は、戻ってこい。
もう、お前の命を取りこぼすのは、二度とごめんだ。
だから…………。
どれくらい魔力を与え続けただろうか。
判然としないが、意識が戻りはじめた様子の士郎は、ぴく、ぴく、と指先を痙攣させている。唇を離し、軽く頬を叩いてみた。
「目が覚めたか?」
問えば、私の声に反応を示し、薄っすらと瞼が開いた。
返事はないが、琥珀色の瞳が僅かに見える。あとは、しばらくこうしてくっついていれば魔力を補うことができるだろう。
「ぁ…………ちゃ……」
掠れた声が私を呼ぶ。
私にその身を預けきった士郎に、少し驚いた。
そっと赤銅色の髪を撫で梳いて、頬に触れた。無意識だろうが、私の手に士郎は擦り寄ってくる。
何やら胸がざわつく。
誰に見咎められているわけでもないというのに、咳払いをして士郎を抱き上げ、いつも腰掛けている岩へと移動した。
その後、士郎がきちんと覚醒してから私の推測を述べ、士郎には魔力が必要であるということを説明し、常に傍らにいることを命じた。そうすれば、自ずと守護者として召喚されることを知らせることができる。また私を探してあちこち走り回らずに済むので、一石二鳥だ。
士郎は不服そうではあったが、自分ではどうすることもできないので従うしかない。私に背後から囲われるように座らされ、足の擦り傷を私に治されながら、
「迷惑かけるけど、よろしくお願いします」
士郎は私を見上げてそう言った。
「……まあ、よろしくされてやろう」
そう答えたものの、迷惑など、毛ほども感じていなかった。
BUDDY 4 了(2021/9/1)