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BUDDY 5

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BUDDY 5


 守護者の仕事を終えて座に戻ると、たいてい瀕死の士郎がいる。
 岩の上に横たわって、意識があればいい方だ。
 今回も意識が混濁している士郎に魔力を経口摂取させ、その身体を抱き込む。
 守護者としてこの座を留守にする間がどのくらいの時間なのかはわからない。
 だいたい英霊の座で何時何分何秒を計るなど、まったくもって意味がない。
 だが、その計ることのできない時間を士郎は私を待ち続けているのだ。
 いや、待っているのかどうかはわからない。
 待ってなどいないかもしれない。
 士郎に訊いたことがないために、私のいない間をどう過ごしているのか、知りようもない。
(本当は、消えてしまいたいのかもしれないしな……)
 士郎は、ここに来たくて来たわけではない。死んで目が覚めたらここにいたと言っていた。であれば、士郎は安らかな眠りにつきたいのかもしれない。
 輪廻の輪から外れ、ここで消えてしまえば、もうその存在すらなくなってしまう。だとしても、士郎がここに在る意味を見出せないのであれば、苦痛でしかないだろう。
(ならば、黙って見送ってやるのが、相棒《バディ》として過ごした者の最後の務めだろうか……)
 そう思いながら、私はそれを実行しようとしない。いつも士郎に魔力を与え、ここに在ることを強要している。
 はじめこそ、今回は消えてしまっているだろうか、と半分は心配し、半分は期待をして座に戻っていたが、今や消える前に戻らなければ、と、守護者として働く最中に、一刻も早く座に還ろうとしている。
 おかしなものだ。
 はじめは消えてしまってもしようがないと思っていたというのに、今は消えられては困るというのだから。
「…………」
 いや、どうして困るというのか。
 何も問題はないはずだ。
 そもそも、士郎は私の座にとって異物。
 であれば、淘汰されるのが筋であって、いつまでもここに留まることは問題だろう。
 しかし、私の座に留まらなければ、アレは消えてしまうのだ。はっきりとした理など私の知るところではないが、そういうものだろう、ということは何とはなしに理解している。輪廻の輪からはみ出し、自らの座も持たない存在は、居処を失えば消えるしかない、……と思う。
「そんなこと、させるものか」
 このところの私はおかしい。
 士郎を消さないために躍起になっている。
 まったく、焼きが回ったものだ。
 ここまで面倒を見るつもりなどなかったのだが……。
 仕方がないか。
 士郎がここにいることを、いつしか居心地が好いと感じはじめているのだから。
「ん……、ぁ…………チャー、おかえ……り…………」
 腕の中の士郎が、辿々しい出迎えの言葉を発する。
「ああ、ただいま」
 生前の士郎にそうであったように答え、ぼんやりとしている士郎の髪を撫で梳く。
 絶対に士郎には言わないが、これが今、私の至福の時間となっている。
 しっかりと覚醒しきっていない士郎は、私にすべてを預けてされるがままだ。何を言っても素直に頷くだけ。
 そんな、普段の士郎では絶対にありえない反応を返してくるのが堪らない。
 少し病的だろうかと自分自身に首を捻ることもあるが、誰に咎められるわけでもないし、士郎にバレない限りは大丈夫だろう。
 唯一バレては困る士郎の方は、いつも魔力が枯渇する寸前の状態にまで追い込まれているようなので、意識がはっきりするまでに時間がかかる。したがって、バレる可能性は少ない。
 後ろめたいとは思ったが、なにぶん派生を同じにする存在だ。べつに構わないだろう、このくらい、という甘えがある。
 そういうわけで、この悪癖は直りそうにない。
 …………困ったものだ。



***

 ぼんやりと砂塵に霞んだ空を見上げ、ぎしり、ぎしり、と軋みながら、ゆっくりと回っている巨大な歯車を見るとはなしに士郎は見ていた。
 台座のような岩に互いに背中合わせで少し斜にずれ、左肩のあたりが触れるか触れないかの位置で、何をするわけでもなく腰を下ろしている。
 剣の荒野に、ただ二人。
 アーチャーは、この見飽きただろう光景を見ているのかどうか、士郎には判然としないが、砂塵を巻き上げる風を受けている。
 後ろ手をついて、気を抜いたアーチャーの姿というものは、士郎に新鮮味を与えた。
(生前では、見なかった姿だ……)
 ちらり、と振り向いてアーチャーを垣間見る。
「なんだ」
 すぐに問われて、士郎は、見咎められてしまったと、内心舌を出した。
「うん、気が抜けてるなあって」
「前にも聞いたな、そのセリフ」
「ああ、うん。言った」
「他の感想はないのか?」
 鈍色の瞳が士郎を捉える。
「他っていっても……」
 答えに窮した士郎は、困惑を隠さないままアーチャーと視線を交えた。
「他の感想もないのに、何度も私を見る、ということか?」
 アーチャーの口調は咎めているわけではない。気分が悪いと言いたげでもない。
 じっと士郎の内面を探るように、アーチャーの瞳は士郎を凝視している。
「ごめん。もう、見ない」
 アーチャーの視線から逃げるように顔を逸らした。
「べつに、悪いとは言っていないだろう?」
「言ってなくても、不快なら、」
「不快だとも言っていない」
「…………、じゃあ、どうしろって――」
 士郎が声を上げて振り向いた瞬間、アーチャーの方が視線を外した。
「ぁ……」
「召喚だ」
「……うん、じゃあな」
「ああ」
 素っ気ない返答を残して、アーチャーは守護者の召喚に応じてしまった。
「アーチャー……」
 今の今まで目の前で話していたアーチャーが、忽然と姿を消す。何か音がするわけでもなく、瞬きの間にフッと消えてしまう。
 それは、サーヴァントが消えるときのような余韻のあるものではなく一瞬だ。
 士郎にはその瞬間が、ひどくこわいものだった。
 アーチャーがいなくなると、士郎は徐々に力を失っていく。以前のように歩き回ってアーチャーを探せば、あっという間に魔力が枯渇して士郎自身は消えてしまうだろう。
 あのときは、アーチャーの戻りが早かったので大事には到らなかったのだが、今、アーチャーが守護者として召喚されていく間隔は、ひどく長いと感じられる。
 人間であったときの感覚でいうならば、数か月くらいではないかと士郎は推察している。最初のときはもっと早い帰還だったため、士郎に意識もあったし、動くこともできていた。ただ、アーチャーを探してひたすら走り回っていたために、アーチャーが戻ってきてから動けなくなりはしたが。
 しかし、今の、感覚的ではあるが、数か月単位の不在となると、士郎にはひたすら長いと感じてしまう。
 余韻すらなく瞬時に消えてしまったアーチャーの姿が最後なのかと思えてしまい、ただただ消えるかもしれない己に恐怖を抱く。
(アーチャー……)
 ぎゅ、と両手を重ねて握りしめ、微かに震える手から視線を逸らして、なんでもないのだと、自分に言い聞かせている。
 そうして、いつも後悔するのだ。
 もう少し楽しそうに話をすればよかったとか、もっと面白い話ができればよかったとか、会話が弾むような話題にすればよかったとか……。
作品名:BUDDY 5 作家名:さやけ