二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

プレゼントは一生ものの逸品です

INDEX|1ページ/9ページ|

次のページ
 
来る二月八日、義勇の二十九回目の誕生日に向けて、炭治郎はかなり張り切っていた。そりゃあもう、実家の弟妹や祝われる当人の義勇が呆れるぐらいには。

 当日は土曜だけれども、残念ながら義勇は休日出勤が決まっている。義勇の職業が教師である上に、今年度は三年生の担任であることを思えば、致し方ないことではある。なにしろ受験シーズンだ。連続休日出勤は当たり前、帰りはずっと午前様という日が十一月辺りからこっち続いている。
 いや、年間通して忙しくはあるのだ。正直、先生というのは夏休みやら春休みやら、サラリーマンなどに比べればずいぶんと休みが長くていいなと思っていたのだけれど、義勇と恋人になり同棲するに至ってみれば、休みなんて有るようで無いのが実情だと知った。
 そもそも勤務時間が、定時上がりのサラリーマンに比べたらべらぼうに長い。
授業や部活が終われば帰れる生徒と違って、先生はその後にも事務仕事やら明日の授業の準備やらがあるので、学校を出るのは早くても七時半ぐらいにはなると義勇は言う。

 家に帰りつくのはどうしたって八時以降。そこから持ち帰った仕事をして、眠るのは日付が変わるころになる。学校行事前や受験シーズンともなれば、午前様の帰宅もザラだ。
 しかも朝が早い。生徒たちが登校するより前に学校にいなければいけないのは当然としても、七時半には学校に着いていないと諸々間に合わないらしく、大学生になった炭治郎よりもずっと早くに義勇は家を出る。部活の朝練がある日ともなれば、剣道部顧問の義勇は六時前にはもう出勤してしまうので、炭治郎も実家にいたころと変わらず早起きしなければ、朝の挨拶すらできやしない。
 では、休日のはずの土日祝日ならのんびり二人で過ごせるかといえば、そんな甘いもんじゃなかった。

 教材研究だ研修だ部活の指導だで、義勇は休日にも出勤や出張が多いのだ。そもそも家にいてくれたところで、授業のためのレジュメを作っていたり資料を調べていたりと、パソコンの前でずっと仕事しているので、炭治郎をかまってくれる時間はやっぱりほとんどない。
 法令がどうあれ、激務の二文字が消えることがないのが教職というものだと、付き合い始めて早々に炭治郎は思い知ったわけである。
 寂しいことは寂しいが、それでも別れるなんて言葉が頭に浮かぶのですらまっぴらごめんだし、内助の功なんてまるで奥さんみたいだと思えば、家事を一手に引き受けるのさえ幸せだったりもする。

 それに義勇だって、炭治郎をかまってやれる時間が少ないことを気にしているのか、炭治郎の誕生日やクリスマスにはどうにか時間を作ってくれているのだ。夏休みには、一泊二日とはいえ旅行にだって連れて行ってくれた。
 すっかり新婚さん気分の同棲生活一年目。残る初めての特別なイベントは、義勇の誕生日とバレンタインだ。
 恋人になって初めて迎える義勇の誕生日。生徒としてでなく、大好きな近所のお兄ちゃんとしてでもなく、恋人として義勇が生まれたことを祝える大切な日。ここで張り切らなくてどこで張り切ると、気合が入りまくったってしかたないではないか。
 休日出勤なのはしょうがないけれど、なるべく早く帰ってきてくださいね。年越し辺りからそう言い続けた炭治郎に、最初義勇はかなり呆れていたようだったけれども、遅くとも五時には帰れるようにすると約束してくれた。

 最近では炭治郎が誕生日のことを口にするたびに、義勇もちょっとソワソワしているようにも見えた。義勇も楽しみにしてくれているのだと思うと、炭治郎の張り切りメーターだって振り切れるというものだ。

 そうして迎えた二月八日。
 日付が変わった瞬間におめでとうを言って、そのまま甘くて熱い時間に浸るのもいいなぁと思ってはいたけれど、それは炭治郎の誕生日にも経験済みだ。義勇の誕生日はできるかぎりのお祝いフルコースで祝いたくもある。
 そうなると、夜中にハードな運動をするのは、朝以降の計画的に少々無理が生じる可能性がある。だからまぁ、おめでとうを言うのは朝一番までお預けでもしかたがない。
 義勇も今日のために仕事を詰めたのか、日付が変わる前には帰れなかったので、結果的には選択肢は一つしかなかったのだけれども、それはともあれ。

 二人が暮らす2DKのアパートに、ベッドは一つしかない。セミダブルのそれは、炭治郎が転がり込んだ次の日に二人で買いに行った代物だ。それまで義勇が使っていたシングルベッドでは、寝るのも、その後で男二人眠るにも、色々と問題があることを思い知ったので。
 義勇は炭治郎が寝入ってから帰宅した時も、そっと炭治郎の頭の下に自分の左腕を差し込んで、腕枕をしてくれる。初めての夜を過ごした翌朝に、炭治郎が自分の枕はいらないと、義勇の腕を掴んだから。だから今も、二人のベッドに枕は一つしかない。
 ベッドヘッドに置かれたスマホのアラームを止めるのは、いつも義勇だ。そもそも義勇の出勤時間に合わせてあるのだから、それはまぁ当然なのだけれど、二人で暮らすようになってから義勇は起床時間を少し早めたらしい。絶対に義勇さんの朝ご飯は俺が作りますと、炭治郎が宣言したからだ。朝食をとる時間分早起きになったと、義勇は笑っていた。
 それまでは、コンビニのパンやらお握りやらを職員室で食べておしまいだったらしい義勇の朝食光景が、すっかり鳴りを潜めたことで、同僚の宇髄には恋人ができたとすぐにバレたらしい。

 職員室で訊かれたからお前と暮らしてるって言っておいたと、平然と語る義勇に、恩師全員に自分が義勇の恋人であることを知られているという事実を悟り、炭治郎が顔を真っ赤に染めたのは四月に入って幾ばくもないころだった。
 炭治郎のことを隠すつもりは義勇にはないのだと、誰に恥じることなく炭治郎を恋人だと言ってくれるのだと、そのさらりとした一言に思い知った。その時の炭治郎の気恥ずかしさと途方もない喜びを、義勇は気づいているだろうか。

 今日もアラーム音で目が覚めて、腕を伸ばしてアラームを止める義勇をぼんやりと寝ぼけ眼で見つめた炭治郎は、義勇に腕枕されたまま、おはようございますより先にお誕生日おめでとうございますと言って笑った。
二十九歳になった義勇とは、七月の炭治郎の誕生日まではまた十歳差になる。九歳差も十歳差も子供扱いされることに違いはないけれど、ちょっぴり残念な気がするのは、炭治郎が自分で思う以上に年齢差を気にしているからなんだろうか。
 けれど、苦笑めいた微笑みと一緒に額に落とされたキスとありがとうの一言に、一瞬浮かんだ寂寥はすぐさま綺麗さっぱり消え失せた。ついでに、ちょっとだけ喉に感じた違和感も、途端に振り切れた張り切りメーターのお陰ですぐに忘れた。寝起きだし、乾燥する時期だし、少しばかり喉が痛むこともあるだろう。

 そこからはまずはいつも通り。義勇が身支度を整えている間に、炭治郎は手早く簡単な朝食を作る。洋食ならトーストと目玉焼きぐらいだし、和食なら昨夜の残りの味噌汁と冷蔵庫の常備菜をちょっと出すくらい。それだけでも同棲当初の義勇には感動ものだったらしい。