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プレゼントは一生ものの逸品です

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 姉の蔦子と二人暮らしだったころには、毎日用意されているのが当たり前だった朝食も、地方の大学に進学してからはコンビニに頼りきりで、こんなふうに誰かが作った朝食を一緒に食べるのは実家にいたとき以来だ。面映ゆそうに微笑んだ義勇に、炭治郎のときめきと安堵は爆上がりだった。
 義勇が気付いていたかはわからないけれど、それはすなわち、義勇には一緒に朝まで過ごす恋人はいなかったということだ。

 いや、恋人はいたのかもしれない。なにしろ義勇はモテる。けれども、一緒に朝を迎えて朝食を義勇に作るような相手は、炭治郎のほかにはいなかったのだ。嬉しくならないはずがないじゃないか。
 だからどんなに忙しいときでも、炭治郎は朝食を用意する。自分が家にいられないときだって、ご飯も常備菜も準備して、レンチンして食べて下さいねとメモを残す。そのメモに、美味かっただとかありがとうだとか、小さく義勇が一言書くのも、二人にとっていつの間にか当たり前になった。
 今日は特別な日だけれど、朝食まで特別に手間をかけることはない。いつも通りがすでに特別なのだと、もう炭治郎は知っているから。
 いつもと違うことはといえば、炭治郎が念を押すより早く、約束通り早めに帰るからと義勇が口にしたことぐらいなもの。晩御飯は義勇さんの好きな物ばかりにしますねと笑い返したときに、蟀谷に感じたツキンとした小さな痛みを、炭治郎は無視した。
 義勇も今日を楽しみにしてくれていたのだと思えば、そんなたいしたことのない痛みなんて、どうにでも我慢できる。酷くなりそうならあとで薬を飲んでおけばいいやとしか思わなかった。今日はいろいろと準備が忙しいのだ、わずかな頭痛になんてかまっている時間はない。

 今日の予定は、まずは義勇が留守の間に普段の家事を済ませ、夕飯の買い出しに出る。夕飯の献立は、義勇の大好物である鮭大根は当然として、今まで出した献立のなかでも、特に好評だったものを幾つか。
 プレゼントはボールペン。たかがボールペンと侮るなかれ。体育教師とはいえ筆記具は必需品らしいし、装飾品を身に着けることがない義勇には実用品のほうが喜ばれると思い、必死に悩んで決めた逸品なのだ。頻繁に使うものなら、炭治郎が贈ったものを日に何度も手にすることになるというのも、ちょっと心惹かれるポイントだった。
 しかも、ブランド物の高級ボールペンというのは、リフィルを交換すれば一生ものらしい。年をとってもずっと愛用してもらえるという点でも、ピッタリだと思った。
 それに、顔立ちの美しさに目が行きがちだけれども、義勇は手だってとても綺麗なのだ。

 大きく固い掌は男らしいし、少し節くれだった長い指はしなやかで、セクシーだとか男の色気なんて言葉が浮かんでしまう手をしている。爪がいつもきちんと切りそろえられているのも、清潔感があって好きだと思う。缶コーヒーのプルトップを開けたり、パソコンのキーボードを叩いているのを見るたびに、その指先に時々見惚れるのは内緒の話。
 三万三千円という値段は少々きつかったけれども、あの綺麗な手が自分の贈った銀色に輝くペンを握る様を想像すれば、一ヶ月分近くのバイト代が飛んでいくことぐらいなんてことはない。恋人として祝う初めての誕生日だ。ここで奮発せずいつするというのか。
 こっそりとキッチンのシンク上の棚に隠しておいたプレゼントは、幸いまだ見つかってはいないはず。受験シーズンに入って以来、家のことは全面的に炭治郎任せになっているし、元々、食器を洗うかレンジでチンするぐらいしか義勇が台所に立つことはないから、きっと大丈夫だろう。
 プレゼントは食事を終えたタイミングで渡すつもりでいる。義勇の瞳の色に合わせたような青いラッピングには、銀色のリボンをかけてもらった。ラッピングを開けた義勇は、いったいどんな顔をしてくれるだろう。
 それから、誕生日といえばやっぱりケーキは付き物だと炭治郎は思っている。とはいえ、実家のベーカリーの手伝いでパンを焼くのは慣れている炭治郎だけれども、ケーキは一度も焼いたことがなかった。味を重視するなら店で買うのが順当だろう。どんなに料理上手を誇ろうと、プロのパティシェに敵うわけもない。
 けれど、初めてである今年ぐらいは、義勇の好みに合ったケーキを自分で作りたかった。
 そこでこの一週間、炭治郎は実家でケーキ作りの猛特訓をしてきた。
スイーツ類を特に好んで食べることがない義勇が、貰いものを二人で食べたときに珍しく食べたりなさそうな顔をしたから、ケーキはスフレチーズケーキに決めた。
 フワフワで口のなかでシュワッと溶ける、コクがあって柔らかな甘さのスフレチーズケーキ。大人の味を印象付けるラムレーズンは、ちょっぴり多めに。
 ケーキ作りは普段の料理とは勝手が違って、最初はしぼんでしまったりひび割れてしまったりしたけれど、この一週間の特訓でそれなりに満足のいく焼き上がりになるようになったと思う。
 学校帰りに毎日家に寄ってはケーキを焼いて帰る炭治郎に、最初は大喜びしていた禰豆子や竹雄たちも、さすがにげんなりしていたようで、昨日炭治郎が帰るときには「やっとしょっぱいおやつが食べられる!」と揃って万歳していたものだ。
 たしかに毎日同じケーキばかり味見させられていたら、勘弁してくれと言いたくもなるだろう。しかも最初の三日ほどは失敗作ばかりだ。実験台にさせてしまって、ちょっとばかり申し訳なく思わないでもない。
 それでも皆、きっと義勇も喜んでくれると太鼓判を押してくれたし、頑張ってねと笑ってくれた。茂が咳をしていたのだけが少し心配だったけれど、すでに専門学校の推薦入試に合格して時間のある禰豆子がついているから、不安がるほどのことはないだろうと思った。

 天気予報では今日は一日中快晴、されど気温は低いので防寒対策を忘れずに。寒がりな義勇はしっかりと着込んでいったから心配はないはず。
 青い冬空は義勇の目のように澄んでいて、空も義勇の誕生日を祝ってくれているようだと、洗濯物を干す炭治郎の機嫌も上々だった。
 不安になってきたのは、家事を済ませ簡単に昼食を食べたあと、買い物に出てしばらく経ってからだ。
 買い物リストのメモを片手に商店街を歩けば、炭治郎ちゃん、炭治郎くんと、声をかけられまくるのはもはや日常茶飯事。義勇と暮らし始めてから約一年。すっかり炭治郎は商店街のアイドルだ。
 今日は義勇さんの誕生日なんですと笑って言えば、そりゃめでたい、あれも持ってけこれも持ってけと、買い物よりも多くの野菜やら肉やらを渡されて。持参したエコバックに入りきらないほどの荷物を抱えて立ち話を繰り返しているうちに、背筋に寒気を感じ始めてようやく、ちょっとの間だからとマフラーをしてこなかったことを後悔した。
 義勇がクリスマスプレゼントにくれたカシミヤの手袋だけは、しっかりとはめていたけれど、ダッフルコートの下はカットソー一枚だ。寒がりな義勇さんと違って俺は寒さには強いしだとか、身体が丈夫なのが取り柄だしなんて、余裕綽々でいた朝までの自分をぶん殴りたい。