雪の日の完璧な過ごし方
冷蔵庫のなかにいるみたいに部屋はキンと冷え切っているし、ラグにできたコーヒーの染みは落ちないかもしれない。玄関先にゴロンと新巻鮭が転がり、バッグも放り出したままだ。それでもそんな大惨事の痕跡すら愛しいから。
明日はふたりとも完全なお休みで、ここまで雪が積もってしまえば、業者を呼びつけるのもためらわれる。だからきっと、エアコンは明日になって電気屋に電話しなくちゃ直らない。
やっとやんだとはいえ、雪はまだまだ溶けそうになく、くっつきあって温めあわなきゃ、寒さを耐えることはできないだろう。お膳立ては完璧だ。
「ね、義勇さん。夕飯の分は冷凍してあるから、明日でもいいと思うんです」
「奇遇だな。俺もそう思ってた」
「染みはもう手遅れだと思うし、鮭も、これだけ寒かったらキッチンに置いておいても腐らないんじゃないかなって」
「……明日手伝う」
「はい。じゃあ、今日はもう……」
「うん、今日はもう、温めあって過ごそうか」
ベッドで、という一言は耳に直接囁きで。
ふたり一緒に布団と毛布をすっぽりかぶって過ごしたら、炭治郎はまた、ジャムみたいにとろとろと溶けて崩れて、義勇にぺろりと食べられる。義勇の愛という火にかけられて、くつくつ煮詰められていく。
隠し味にはかわいいギャップ。寒がりさんを心のなかから温めるのには、しょうがよりも甘い甘いジャムが効く。
きっと、世界で一番素敵な寒い雪の日の過ごし方だ。
作品名:雪の日の完璧な過ごし方 作家名:オバ/OBA