包んで包まれて
鍋に水を張って火をつける。お湯が沸くころには二袋目のシュウマイの皮も、すっかり蒸されるのを待ってる。シュウマイは強い火力で一気に蒸し上げるほうがおいしい。タイマーを八分にセットしたら、三袋目にとりかかる。
ローテーブルに乗り切らなくなったお皿は布巾をかけて床に直置き。きれいに掃除したから、蹴り飛ばさなけりゃ大丈夫。
そのころにはもう、いつもみたいに会話も弾む。だけどまだちょっぴり照れくさい。喧嘩の後はいつもそう。
ピピピとタイマーが鳴った。シュウマイを包むのは一時中断だ。アツアツのをお皿に乗せたら、第二弾を蒸し器に並べて再びタイマーをセット。八分間のあいだに、シュウマイを持ってふたりでお隣りへ。
お爺ちゃんは健啖家だから、お裾分けもちょっと多めだ。並んで立つ俺らに、しわだらけの顔をうれしそうにくしゃくしゃにして、お爺ちゃんは「いつも仲良しだなぁ」と笑う。顔を見あわせて、はいと笑い返すのも、もうお約束の光景。
部屋に戻るところで、下の部屋に帰ってくる三人の姿が見えた。
「炭治郎兄ちゃん、義勇兄ちゃん! お土産買ってきたよ!」
「おー、ありがとな! シュウマイあるぞ。蒸しあがったら持ってくな!」
やったぁとはしゃぐ声に手を振って、部屋に戻れば急いで手を洗い、またシュウマイをせっせと包む。競争と言い出すのはいつも俺のほう。最初は負けっぱなしだった義勇さんも、もういい勝負になるんだけど、スピード重視になるとお互いちょっと不格好になる。だからいつも、自分たちで食べる分は、すこし歪だ。
アパート全部屋にお裾分けに回ったら、最後のシュウマイをふたりで食べる。アツアツのをハフハフ言いながら。喧嘩したあとの仲直りの儀式は、いつもそんな感じ。
その後? それはまぁ、いいじゃない。牡蠣や鮭を食べなくても、義勇さんはシュウマイで十分だと思う。それで察してくれよ。
喧嘩するのは、そのあとで仲直りするためなのかもしれない。いつもよりもちょっと甘くて、やさしくて、少しだけ照れくさい、幸せな夜を過ごすために。
大量のシュウマイを包んだその日は、いつもより甘い愛に包まれて眠る。やさしさに包まれたこの町で、喧嘩と仲直りを繰り返しながら。