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舞え舞え桜、咲け咲け想い

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 むやみやたらとうれしくなって、クスクス笑って言えば、義勇の目がきょとんとしばたいた。
 でも、それはほんの一瞬だけ。すぐに義勇もうれしそうに笑い返してくれる。
「赤ずきんの狼なら、問答の最後の台詞は決まりだな」

 それはおまえを食べるためさ。

 そう言って近づいてきた、きれいでやさしい狼の唇は、緊張からか少し震えていたし、ちょっと冷たかったけど、ひたすらにやさしく炭治郎の唇に触れた。もちろん、赤ずきんと違って、炭治郎は逃げ出したりなんかせずに、大人しく狼に食べられることをえらんだのだ。

 ゆっくりと目を閉じれば、とうとう眦から伝い落ちたひとしずく。初めての口づけは、涙の味がした。



 狭くて暗いトンネルから出ると、空は燃えるように赤くなっていた。聞き馴染んだ帰宅をうながすメロディが、誰もいない公園に流れている。
 ずっとちぢこまっていたから、体が痛い。風はまだ吹いていて、くるくると桜が舞っていた。
「大学……離ればなれになるかもしれないけど、それでも……」
 炭治郎の手をとって立ちあがらせてくれながら、義勇が言う。声音に滲む不安のひびきが、幼かった義勇の姿を炭治郎の脳裏によみがえらせた。

 ずっと、ずっと、いちばん仲良しでいてね。ずっと一緒にいてね。

 約束したあの日、泣いていたのは義勇のほう。大きくなった今、涙にぬれた炭治郎の目を、拭ってくれる手が優しい。
「約束したもんな」
 笑って言ったら、ホッとした気配がして抱きしめられた。
「うん。ずっと、ずっと、一緒にいよう」
「うん……いちばん仲良しでいよう」

 来年の今ごろ、俺たちはなにをしてるだろう。どこにいるんだろう。先のことはわからない。だけど、毎年こんなふうに舞う桜を見るんだ。この公園の桜じゃないかもしれないけれど、どこでだって、一緒に。

 太郎丸ももういない。義勇は泣き虫な甘えん坊じゃなくなった。俺は、どうなっているのかな。炭治郎は考える。自分のことはよくわからない。わかっているのも、願いも、ひとつだけ。
 きっと、ずっと、義勇が好き。育って咲いた恋の花。枯れることなく、ずっと、ずっと、咲き誇れ。