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自分らしく
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彼方から 幕間5 ~ エンナマルナへ ~

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 彼方から 幕間5 〜 エンナマルナへ 〜


 陽が、西に傾いてゆく。
 あと数時も経てば、完全に地平の下へと沈むだろう。
 薄まりゆく空の蒼。
 深みを増してゆく夜の藍。
 上空を吹く風は冷たさを帯び、少し満ちた月が、光を放ち始めている……
「見えたぞ、エンナマルナだっ!」
 翼が空を切る音が、煩く思えるほど良く聞こえる。
 傾く陽が朱く染める砂の大地に、黒く浮かび上がる巨大な岩の塊のような『聖地』が、視界に入る。
 カイダールは、翼竜の背上から肩越しに後ろを見やり、そう怒鳴っていた。

「奴らを捜せ! 近くにいるはずだっ!!」
 自らも眼下に視線を落としながら、手下たちに指示を飛ばす。
 やがて…… 
「頭ぁっ! あそこっ!!」
 手下の一人が、東の方を指差し、叫んだ。
 遠く、指し示された方向に舞い上がる、土埃……
 凝らした瞳に疾走する一台の馬車と、その馬車を護るように囲み、共に駆ける数頭の馬の姿が映る――
 当然、こちらに気付いているのだろう。
 巻き上げられた土煙の激しさが、それを物語っている。
 追い付かれまいと必死に馬を走らせている――
 そんな様が瞼に浮かび、カイダールは一人、ほくそ笑んでいた。
 
 ――これで
 ――おれの望みが叶う……

 歓声が聴こえる……
 ナーダの近衛として、闘士として……闘技場で力を見せつけていた日々が、脳裏に蘇ってくる。
 他の者たちから一目置かれ、敗者を見下す、あの優越感……
 『強い』、ただそれだけで、欲するものは全てこの手の中に入ってきたのだ。
 富も、権力も、名誉も……
 …………だがあの日――あの『御前試合』の日。
 たった一人の『男』のせいで、全てを失った。
 今でもハッキリと覚えている。
 あの『男』の、不敵な笑みを……最後の最後に見せた、『能力』を。 
 苛立ちと憎悪が奥歯を軋ませる。 
 カイダールは、風に吹き流されてゆく土埃を鋭く睨みつけると、
「行けっ! 奴らの行く手を塞げっ!!」
 怒号と共に手下たちに命じていた。
 雄叫びを上げ、翼竜を繰り、一行の頭上を越えてゆく手下たち。
 その勇猛な背に、更に口元が緩む。
 ……あの日、この手の中から失ったもの全てを、やっと取り戻すことが出来る――と……
  
 四羽の翼竜が、旋回を始める。
 一行の行く先を塞ぐように、彼らの眼前に降下してゆく。
 その動きに合わせ、カイダールも翼竜を降下させる。
 一行の……退路を断つ為に――
「……ぬっ?」
 ふと、眉根を寄せた。
 一瞬だが確かに――落とした目線の先に、何か光る『モノ』を見た気が、した……
 刹那――

     ―― ヒュオッ…… ――

 鋭く空を切る音と共に煌めく氷の槍が、視界に突如として飛び込んできた。

     ―― ギャーッ ――

 顔を掠め、飛び去る氷槍に驚き、けたたましい鳴き声を上げ、翼竜が激しく羽搏く。
「落ち着けっ!! クソッ!!!」
 手綱を、咄嗟に引き絞る。
 怯え、抵抗し、この場から逃げようとする翼竜の背から、振り落とされないようにするのがやっとだ。
 中空で暴れる翼竜を何とか制御しながら、眼下を見やる。
 地上まで距離はあるが、人一人の姿、見つけられない高さではない。
 現に、逃げる一行の馬車も馬も、その馬に乗る人間までも、ハッキリと視認できる。
 槍を放ったのは間違いなく、グゼナの兵が話していた『能力者の女』。
 容姿の特徴も分かっている――見逃すはずがない。
 だが――
「……いねぇ――」
 下界に広がる砂の大地のどこを見やっても、女の影も形も……見出すことは出来なかった――

 ――……っ!!
 
 不意に……
 背中に冷気を感じた――
 鋭利な刃物の先端を思わせるような、冷たい『気』を……

「悪いけれど、翼竜から降りてもらえるかしら……」

 翼が空を切る音に交じり……背後から聞こえた女の声音に、動きが止まる。
 制御が緩んだ隙に、未だ怯える翼竜が、勝手に旋回を始めてしまう。
 どうやって、飛翔する翼竜の背に乗ったのか、見当がつかない。
 確かに高度は下げたが、それでも、地上から簡単に飛び移ることなど出来ぬ高さのはずだ。
 だが、この背に伝わる冷気も殺気も――『本物』……
 背筋に悪寒が奔る。
 体が、恐怖に慄いているのが分かる……
「くそがっ!!」
 『恐れ』に震える体を捻じ伏せるかのように、カイダールは剣の柄に手を掛けた。
 だが、抜く間も無く……
 一瞬の衝撃と共に、体は宙へと投げ出されていた。

          **********
 
「どうやら、エイジュの方は上手く行ったみたいだな……」
 後方の空を肩越しに見やり――バーナダムは少し、表情を強張らせる。
 視界の端に映る、旋回してゆく一羽の翼竜……
 生き残る為の『最後の戦い』の火蓋が、切って落とされたことを犇々と感じる。
 彼の言葉に釣られ、後ろを見やり、
「よし……今度はおれたちの番――ってことだな」
 バラゴはそう言って、バーナダムにいつもの懐っこい笑みを見せていた。
 その笑みに少し……緊張の糸が解れる。
 強張っていた表情が、僅かに緩む。
 大きく息を吐き、
「ああ! そうだなっ」
 気を引き締め直すように力強く言葉を返すと、バーナダムは硬さの残る笑みを見せていた。

「いよいよだよ! いいねっ! みんなっ!!」

 前方から迫り来る翼竜を見据え、ガーヤの檄が飛ぶ。
 彼女の檄に応じ、声を上げ、皆は前方に舞う土煙を見据えた。
 幾度も羽搏きを繰り返し、地上へと降り立とうとしている四羽の翼竜……
 ガーヤは馬を急かし、御者台の横に着けると、馬車を繰る男の名を呼んだ。
「アゴルッ! 分かっているねっ!!」
 その声に瞳をだけを動かし、彼女を見やるアゴル。
 唇を引き結び、大きく頷き――『分かっている』ことを伝える。
 瞳を前へと戻す。
 濛々と立ち込む土煙の中、地上へと足を着け、翼を閉じようとしている翼竜の姿が眼に入る。
 今にも翼竜から降りようとしている、襲撃者たちの姿が……眼に入る――

「はっ!!」

 掛け声と共に、激しく手綱を打ち鳴らす。
 甲高い嘶きを上げ、馬は、更に速度を上げてゆく……
 アゴルは、行く先に降り立った翼竜目掛け、馬車を走らせていた。
 翼竜の大きな体が、見る見るうちに視界に迫って来る。
 轟々と車輪を鳴らし、向かって来る馬車に怯える翼竜の様が……
 行く先を塞がれているのにも構わず、物凄い速度で突っ込んでくる馬車に驚く襲撃者たちの顔が、良く見て取れる。
 逃れようと翼を広げ、飛び立とうと暴れる翼竜。
 手綱を握り、抑えようとする襲撃者たちは、その力にただ振り回されている。
 ……塞がれていた道が、開く。

 アゴルはもう一度、馬の背に手綱を強く打ち付け、
「退けっ!! 怪我をしても知らんぞっ!!!」
 猛る馬の嘶きと共に、襲撃者たちに怒号を浴びせていた。
 
          ***

「翼竜の間を抜ける! 何があるか分からない! みんな、何かにしっかりと掴まるんだ!!」
 ジェイダの張り詰めた声が響く。
 激しく揺れる馬車。
 否応もなく、上下左右に体が揺さ振られる。