ポケットに咲く花。
「あ私、……シャトーブリアン二人前と、ザブトン、て美味しいの?」真佑は遥香にきく。
「おーいし~」遥香はにこやかに頷いた。
「じゃザブトンも、一人前で」
「えーじゃあ、どうしよ……」さくらもメニュー表を遠目に凝らして見つめる。「じゃあ、私もぉ、どんぶりで。えとお肉はぁ……、タン塩、一人前と、シャトーブリアンて、美味しい?」
「めっちゃ美味しい」聖来はさくらに微笑んだ。「やわらかいの……」
「じゃあ後ぉ、シャトーブリアンを一人前で。お願いします」さくらは店員におじぎした。
「やあやあ、食べてるでござるな?」
焼肉の屋台の前に、姫野あたるが姿を現した。四人は咄嗟(とっさ)に姫野あたるに挨拶を返していた。
「ダーリンも食べるん?」聖来は笑って言った。「あれやで、シャトーブリアン、おススメやで!」
「なんと!」あたるは驚く。「シャトーブリアン、聞いた事いっぱいあるでござるよその響き……、あるでござるか? ここに」
「今焼いてもらってるの」遥香は上目遣いで自覚無しに、可愛らしかった。「食べるの、これから」
「そうでござるか! では小生も……」あたるはメニュー表を遠目に凝らして見る。「ハラミとカルビ、それとぉ、シャトーブリアンを貰うでござるよ、店長殿」
「はいよ」
西側のラウンジのソファ・スペースに、乃木坂46一期生の高山一実と卒業生の西野七瀬は腰を下ろした。そこには乃木坂46四期生の金川紗耶と、北川悠理、黒見明香、松尾美佑、矢久保美緒、弓木奈於が先に座っていた。
「どうしたの、弓木ちゃん、ちょと疲れた?」一実はお手本のような笑顔で奈於に語り掛けた。「どうしたのこんなところに座って……」
「ちょと、食べ過ぎました」奈於は苦笑して答えた。「私達が最初に来たんで、ここ、この、お祭りに。ちょと、はしゃいじゃって……」
「あははは」一実は眼を半円にして可愛らしく笑った。「なぁちゃん、疲れた?」
「んー。まだ、いける」七瀬は可愛らしいファイティング・ポーズを取って言った。
「何かもう、お食べになられたんですか?」紗耶は馬鹿丁寧に言葉を整列させて一実と七瀬に言った。
「あーお食べになりましたぁ、あはは」一実は答える。
「かき氷、食べました」七瀬は紗耶に正確に答えた。「何味だったかは、忘れたけど……」
「へー」紗耶は必要以上に頷いて関心を示す。「かき氷か……」
その場に、お見合いの様な空気感が溢れていた。
「矢久保ちゃん何食べた?」奈於は空気感を破って、美緒にきいた。
「えーと、たこ焼き……、タピオカ、かな」美緒は微笑んで奈於に答えた。
「悠理ちゃんは?」奈於がきく。
「えー、フェットチーネグミとぉ、和菓子、いっぱい食べた」悠理は笑顔で答えた。
「みゆも矢久保ちゃんと一緒、タピオカ」美佑は自発的に奈於に答えた。
「やんちゃんは?」明香は笑顔で紗耶に言った。「何食べた?」
「矢久保と同じ、たこ焼き」紗耶は明香にそう答えてから、奈於を見る。「何食べたの、お腹いっぱいって」
弓木奈於は考える。「んー、とぉ……。焼肉、まず食べたでしょう……、おでん、のタコ、でっかいの、食べたでしょう……、たこ焼き、でしょう……。ていうかですね、私、一実さんと七瀬さんの大ファンなんですよ!」
「えーえー急になにー」一実は笑って、ドリンクを零しそうになった。
「急に?」七瀬は苦笑する。
「んもう、ず~っと大ファンでえ、ほんと、ほんとありがとうございます!」奈於は興奮する。
「何が~?」一実は天使の様に笑う。「えちょと意味がわかんないから、あははは」
「ありがとうございます」七瀬は微笑んで、奈於におじぎした。
「もうおんなじ空気吸うの、禁止です、自分的に」奈於は混乱しかけている。
高山一実は笑っている。西野七瀬も、弓木奈於の発言に可笑しそうに笑っていた。
乃木坂46四期生の筒井あやめは、清宮レイと手を繋いでいる。その後ろを、同じく乃木坂46四期生の柴田柚菜と掛橋沙耶香と、林瑠奈と佐藤璃果がついていっていた。
「一周回ったね」レイはあやめに微笑んで言った。その手にはキムチの載った紙皿が持たれている。「けっこう、時間かかったよね」
「かかったー」あやめは笑顔で答える。その手にはタピオカ・ミルクティーが持たれていた。「けっこうメンバーと会わないのね。あそっか、みんな同じ方向に回ってるからか」
「焼肉美味しかったー」柚菜は誰にでもなく言った。その手には、桃飴が握られている。
「あー美味しかったねー」瑠奈は柚菜に答えた。その手にはたこ焼きの入った紙皿が持たれている。「でも、食べ過ぎた……。ヤバいな、苦しいわ」
「景色がずっと夕焼けだね」紗耶香は璃果に言った。その手には苺飴が握られている。「盛り上がってるけど、なんか切ないなー」
「ね。意外と参加してる人数、少ないのかな……」璃果は手に持ったカレーライスを頬張りながら紗耶香に言った。「美味しい、このカレー……」
「さっき焼肉食べたのに」紗耶香は笑う。
「半分にしてもらったから」璃果は食べながら必死に答えた。「あ……」
六人の前方に、こちらを凝視している磯野波平の姿があった。彼は五人が気が付いた時点で、こちらに寄ってきた。
「あやめちょん!」磯野は大はしゃぎで言った。「レイちょん!」
「こんばんは~」あやめははにかんで、挨拶した。
「こんばんは」柚菜は磯野に微笑んだ。
「こんばんはー」レイもはにかんで磯野に挨拶した。「今まで会いませんでしたね」
「敬語はやめようぜ~? 俺達籍入れる手前じゃーん」磯野はどうしようもなく照れ笑いを浮かべながら言った。
「入れないけど」レイは少しだけ笑う。
「やめて下さい!」璃果は磯野に厳しい表情で言った。
「おーおー、璃果ちょん、何だ何だあ? 嫉妬の権利かあ?」磯野は楽しんで言う。
「波平君、あの、璃果まじめなんで、からかわないであげて下さい」紗耶香は微笑んで磯野に言った。
「さぁちゃん、さぁちゃんがそう言うんなら、オッケーだぜ」磯野はそう言ってから、璃果を見る。「ごめんな、璃果ちゃん。愛してっぜ!」
「もう……」璃果は頬を膨らませる。
「おお瑠奈ちょん!」磯野は驚いたように、瑠奈の顔を見て言った。「なんつう美少女だっつうの! 瑠奈ぴょん」
「ぴょんて……、エグイわ」瑠奈は苦笑する。
「ゆんちょんなんてにこにこ王国のお姫様だぜ絶対」磯野は、満面の笑みで柚菜に言った。
「いやいや」柚菜は苦笑する。
「何でちょんちょん言ってるんですか?」レイは小首を傾げて磯野を見る。「新しいあだ名?」
「ちょんちょん言いたい気分だったからさ」磯野は爽やかに微笑んだ。「敬語、ダメ、絶対」
「敬語ダメ絶対、はは……」レイは少しだけ笑った。
「しっかし、すんげえ美少女チームだなあ?」磯野は六人を見回して言った。「このユニット有りだな。あったら推すぜ、絶対みんな」
「みんなって誰?」レイはきき直す。
「ファン全体よぉ」磯野は両腕を広げて言い表した。「可愛いに特化したユニットになんだろ? ぜってえみんな好きだからよ」
「みんな、歌上手いからね、あるかもよ?」璃果は四人を見て言った。