ポケットに咲く花。
影ナレは噛み噛みの三期生、山下美月で、明太子の粒の数より、沢山思い出を作りたいと語った。山下美月の一言一言に、オーディエンスの盛大な拍手が沸き起こった。
福岡県出身の三期生与田祐希がメインMCとして、同じく三期生の吉田綾乃クリスティー、大園桃子、伊藤理々杏の四人が、九州メンバーとして笑いの絶えない前説を行った。
乃木坂46カラーである紫色一色に染まる会場――。スティックバルーンの太鼓音と共に、やがてオーバーチャーが、会場を照らし出すスポットライティングと共に流れ始める。
様々な色のサイリュウム達――。
一曲目は、遠藤さくらの煽りから、『スカイダイビング』が始まった。センターを四期生の遠藤さくらに置き、爽快で清潔感あるサウンドにのせて彩るブルーのイメージが、そのライティングに存分に活かされていた。衣装は薄紫色であった。
楽曲の終わりに続いて、山下美月の煽りで、今度は『ロマンスのスタート』が二曲目に歌われた。センターを務めるのは三期生、山下美月である。山下美月が曲中にオーディエンスをいじる演出が熱かった。
三曲目は、『サヨナラステイ・ウィズ・ミー』であった。センターは一期生の齋藤飛鳥と四期生の遠藤さくらのダブルセンターであった。会場を回るトロッコも登場した。メンバー達はステージいっぱいに広がる。
四曲目は、『自惚れビーチ』である。センターは二期生の鈴木絢音だった。夏祭りの夜のような風流なライティングがエモーショナルであった。
鈴木絢音は丁寧(ていねい)に会場のオーディエンスと配信を見守るファン達へとメッセージを送った。
そして五曲目には、人気曲の『シング・アウト』が歌われた。センターは一期生の齋藤飛鳥である。オレンジのライトが、まるで天の光を現わしたものであるかのように、エモーショナルであり、齋藤飛鳥のソロダンスは見事に美しすぎて、言葉には表せない程であった。
名曲としか言い表しのないメロディが会場中を駆け巡る……。
舞い上がる拍手……。
楽曲が終わると、齋藤飛鳥の挨拶があり、秋元真夏の噛み噛みのMC劇場があり、途中乃木坂46結成十周年を祝う記念ケーキも登場した。その会話の流れから、戸惑うメンバー達をしり目に、メンバーを代表して、生田絵梨花がハッピーバースデイを見事な美声で独唱した。
『いくちゃん? いくちゃん?』
『本日は、私のソロコンサートに』
『いやいやいやいや』
『違う違う』
和田まあやがティッシュ配りをイオンモールで行った事など、苦労した過去を語り、十周年やってきて本当に良かったと纏めた。
樋口日奈は、変わるべきところは変わり、変わらないところは変わらない乃木坂46が好きだと語った。
また六曲目として再開されたステージは、三期生与田祐希と四期生筒井あやめの二人ユニットで歌う『ざぶんざざぶん』である。巨大スクリーンに二人の顔が大きく映し出され、首から半身は本物で踊るという演出がなんとも斬新で、それは実に可愛さに特化したステージであった。
七曲目に開始された楽曲は、ライブでの人気を誇る楽曲で、一期生の齋藤飛鳥と同じく一期生の星野みなみと、三期生の山下美月の新体制で歌われる『スリーフォールド・チョイス』であった。これは楽曲もダンスも三人も、全てが可愛すぎる仕上がりになっていた。
衣装は星野みなみがピンク、山下美月がオレンジ、齋藤飛鳥が水色のミニ・ドレスであった。
静かに始まる八曲目の『日常』は、舞い上がる煙幕の中、明滅する赤いライティングと切れ味のあるダンスで大迫力のステージである。センターは二期生の北野日奈子であった。会場の赤と青のサイリュウムが美しく比例していた。
九曲目とされた楽曲は、根強いファンも多い『滑走路』であった。センターは二期生の寺田蘭世である。明るいライティングに、活発的なダンスが象徴的であった。
VTRにて、期生楽曲について各メンバーが想いを語っていく……。
「ここでさあ、十曲目か何曲目かの、ひと夏の長さよりが始まるんだよ~、たーまんねえな!」夕は嬉しそうに言った。テーブルには呑みかけのアサヒ・ビールがジョッキで置かれていた。
「センターは、まなったんとかっきーだったね。ぴったりだ」稲見も嬉しそうに言って、ソファに深く腰掛けた。
「白と銀の衣装がとても綺麗でした」駅前はそう言って、つい先ほどのライブの思い出に浸る。
「まなったんとかっきー殿が、人差し指を合わせたんでござるよ!」あたるは興奮して言った。
「まあ、可愛すぎるわな。名曲すぎるしよ」磯野はアサヒ・ビールをジョッキで呑みながら言った。
現在、乃木坂46真夏の全国ツアー2021イン福岡の生配信が終わった為、乃木坂46ファン同盟の五人は、〈映写室〉から地下二階の東側のラウンジ、通称〈いつもの場所〉へと移り変わり、先程まで身を寄せていたライブの話で盛り上がっていた。
「次、アナスターシャな!」磯野は笑顔で言った。
「センターはまいちゅんときいちゃんだったね」稲見は無表情で言った。
「薄紫色の衣装でした、素敵でした~」駅前はそう言って、また想像する。
「アナスターシャは名曲でござる!」あたるは誰にでもなく大きな声で言った。アサヒ・ビールをジョッキで吞む。「ぷうあ、……アナスターシャは、感動させる為に生まれてきた楽曲でござるよ」
「二期生楽曲の代表だよな」夕はそう言って微笑んだ。
「で、トキトキメキメキなわけよ。ん最っ高だろうが!」磯野はテンションが高い。
「三期生楽曲だな」夕はアサヒ・ビールを一口吞んだ。「センターのれんたんが、ほっぺを膨らますんだよ、こうやって、片方だけ……」
「よく見るけど、あれは可愛いね」稲見は無表情で抑揚無く言った。
「フリも歌も歌詞もダンスもっ、可愛すぎるでござる!」あたるは興奮する。
「雑誌の切り抜きを集めた様な可愛らしくオシャレな衣装でした」駅前はそう言って、また眼を瞑る。
「アゲインストな、次の曲」夕が言った。「センターはいくちゃんとみなみちゃん、ヤバいなこの楽曲も。一期生楽曲なのか……」
「とにかくダンスがカッコイイね」稲見は発言した。「ユラユラする所が、特にカッコイイ」
「三分の二がグレー、三分の一がブラックのスカート丈の長い衣装でした。衣装もカッコイイんですもの……」駅前は浸る。
「十四曲目が、アイシーな」磯野は笑顔で言った。「これ最強だったろ!」
「お前十四曲目、て……何曲目とか、全部覚えてんの?」夕は驚いて、少し嫌そうに磯野を見つめた。
「あったりめえだろ。んなもん」磯野はきょとん、と答える。
「かっきーの衣装はピンクでした」駅前が言った。
「あやめちゃんは朱色だったな、でレイちゃんはピンク」夕は思い出しながら言った。
「弓木ちゃんは朱色でござった! あとくろみんがピンク!でござる」あたるは顔を歪めて思い出そうとしている。
「ゆんちゃんもピンクだったな。さぁちゃんが朱色で、まゆたんがピンク。さくちゃんもピンクだった」稲見は記憶を辿って行った。
「せーらさん朱色だったな! 悠理ちゃんはピンクだった。あとぉ」磯野は悩む。
「まあそろそろ空扉行こうぜ」夕は苦笑して言った。
「二期生と三期生で歌ってたでござるな! んん名曲!」あたるは感無量に微笑む。