午後4時のパンオショコラ
その狂おしい衝動には、まだ名がない。名付けたらもう、後戻りできない気がして、名をつけられずにいる。もうわかっているはずのその名を、義勇は決して認めない。
記憶のなかでぼんやりとした像を結ぶ、小さな炭治郎のきれいな赤い目からこぼれ落ちる、清浄な涙のきらめき。あれを穢すわけにはいかないじゃないか。
義勇は深く重い溜息をつき、緩慢な動きで立ち上がった。無理にでも動かなければ、溜まっていく穢れに突き動かされ、衝動的にベーカリーに行ってしまいそうで怖い。
とにかく今はなにも考えずに、ルーチンワークのような日常動作だけしていよう。
それとも、久し振りにハッテン場で相手を探そうか。思い浮かんだ瞬間に、義勇はそれを打ち消した。
錆兎の結婚を穢すような気がして、見知らぬ男との即物的で淫らなセックスなど、今日だけはしたくない。
溝浚いすら叶わない澱みは心の底にドロドロと溜まって、今夜はきっと眠れないだろうと義勇は苦く思った。
作品名:午後4時のパンオショコラ 作家名:オバ/OBA