第三皇子と皇子直属学者
『その一通から始まる』
両親がいなくなってからのロゼルタは自由だった。そんなものを学ぶ必要はないと本を取り上げられたり、次はこれを学べと気乗りのしない学問を押し付けられることがなくなったからだ。
他の家ではどうかは知らないが、ロゼルタの家では何故か『実用的な学問』というものが重視されていた。実用的といっても「手厚い保護が受けられる」だとか「軍に重用される」だとかそういったものばかりで、そのどれもがロゼルタの興味の引くものではなかった。
両親を失くしてからというもの、ロゼルタは本当に自分のしたい研究を好きなだけ出来るという自由を謳歌をしていた。─1通の手紙が届くまでは。
「古代文明の叡知に惹かれる同士がいることが嬉しい。是非ともにその未知を明かしてはみないか」
そんな文面を含んだ手紙には送り主の名前がなかったものの、記された紋章から皇室のものであることがわかった。
古代文明─。それはロゼルタの興味を独占した学問である。触れる人間が少なく難解なことから未だ多くの謎と失われた技術を持つ文明。おおよそこの国での『実用性』とは程遠いとされる学問だった。
だからこそ両親は学ばせたがらなかった代物なのだが、それを理由に皇室から目をかけられようとは、随分皮肉なものだった。
「·····」
文面を数度読み返し、ロゼルタは息を吐いた。
出来る限りの支援を約束することが書かれたその内容は、正直なところありがたいものだった。
研究に必要な道具、材料、そして資金。今も未知の分野に分類される『古代文明』は、他の学問で必要になるそれらが桁違いに多い。正直に言えば今の環境では限界があった。
そのうえ、皇室には関係する者でしか触れられない書庫がある。そこで知識を得られることもまた魅力的だった。
しかし、皇室に行けばおそらくまた「他人の指示で」研究を行うことになる。ロゼルタにはそれが気がかりだった。
手紙を元の通り丁寧に閉じ、封筒に直す。
机にあるものの中から一番上質な紙を選び、ロゼルタは返事を書き始めた。
─皇子直属の学者として取り立てられ、宮殿でまた新しい興味の対象と出会うのは、もうしばらくあとのことだ。
作品名:第三皇子と皇子直属学者 作家名: