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再見 五 その三の一

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別人かと思う程、覇気の無かった長蘇は、藺晨と共に街へ行った日を境に、元通りに気力を取り戻した。

 気力は取り戻したが、復讐への最初の一歩が、挫けた事には変わりがない。
──思い悩んだ所で、何かの道が、拓ける訳では無い。生きていかねばならぬのだ。、、、、腹だって減るし。
 今は老閣主の帰りを待つしかない。
 地道に、足場を固めよ、、そういう事だ。
 江左盟をもっと大きくし、仲間の生活を安定させねば。──

 長蘇が直談判した日、居座る長蘇をそのまま放ったらかしにして、琅琊閣の閣主は旅に出た。老閣主はそのまま、今だ戻らず。
 息子の藺晨も、老閣主を探しているが、その足取りは全く掴めない。
──天下の、あらゆる情報を掴んでいる琅琊閣が、掴みきれぬ老閣主の足取り、、。探す藺晨とて、あらゆる手を尽くしている筈なのに、探し出せぬとは、、。これはもう、『お見事!』と言う他、、、。うーん、さすがは老閣主、、。──


 藺晨はというと、、、、
 老閣主の不在のせいで、山のような全ての責務と老閣主の仕事を代わりにこなす、、、、というわけではなく、、、。
 老閣主の代わりに、その仕事をしなくてはならない、と、覚悟をしてはいたのだが、、、これが案外、藺晨の所には回って来ずに、、琅琊閣の各機関で、淡々とこなされていた、、、何の問題も起こらずに、、。
 少し拍子抜けした。
《父上が不在なれば、相当忙しくなると、内心はらはらしていたのだが、、、これがまた、、全く私の仕事量も忙しさも、なにも変わらぬとは、、、。一体どういう事だ。》
 全く変わらぬ事にも不満があった。そこそこ忙しければ、不満のぶつけ甲斐もあろうというものだが。藺晨が何もせずとも、琅琊閣はちゃんと回っていると言う事だ。
 ほっと安心する一面、『そんなに私は頼りにならぬのか』と、不満でもある。
《ま、私が、長蘇と遊び呆けても、琅琊閣はビクともせん、と言う事か。》
「さて、そろそろ次の衣はどうなっているか。見に行って、発破をかけてくるか。フフフン〜。」
 琅琊閣の衣をまかなう紡衣房、数日置きに催促に来る藺晨に、少々辟易していた。
 初めに長蘇の衣を仕立てた時には、やっと腕が振るえると、紡衣房の者が大いに喜んだ。
 急ぎで、刺繍の施された「女物の衣」を求めたら、次の日には出来上がっていた。
 毎日毎日、綿や麻の衣を縫うばかりで、紡衣房の者が飽き飽きしていて、手慰みにこっそりと絹布に刺繍をし、誰が着るでもない衣の準備をしていたのだ。
 初めの衣を頼まれた時は、大喜びで夜通し衣を縫い続けたが、その状態を連日続けられる訳は無い。一着目は、たまたま刺繍を施した絹布に藺晨は満足したが、二着目となると、色合いや柄にこだわりが出て、小うるさい注文が出始めたのだ。
「若閣主の言った通りの衣を作るのに、一体どれだけ時間を要すると!!。刺繍を施すだけで、ひと月以上かかるのですよ!!。」、、と、怒られた。
「は?、この前は次の日まで仕上げたではないか!。」
「あれはこの紡衣房で保管していた物を使ったと、何度もご説明したでは無いですか!。」
「ん?、、。」
 藺晨は長蘇と出かける嬉しさで、紡衣房の者の言葉なぞ、頭に入らなかったのだ。
 藺晨こだわりの衣は、出来上がり次第という事で、紡衣房にある物でマシなものを選び、仕立ててもらう事にした。
「これは明日まで仕上がるのだろ?。」
 そんな何気ない言葉に、紡衣房の房長が怒る。
「我々を何だと!。休まず働けと言うのですか!!。」
 房長の怒気に押され、藺晨は、逃げる様に紡衣房を後にする。
 だが、衣が出来れば、また街へ出かけようと、誘い出す口実ができる。房長の怒気も何ともなかった。
 長蘇も琅琊閣から出るのは、良い気分転換にり、藺晨が誘うのを待っている。
 それが何よりも嬉しいのだ。


 月に一、二度ほど、琅琊閣から下りて、近隣の街へと繰り出す。
 長蘇が来る前は、従者達がいるものの、長々と馬車に缶詰になったり、一日掛りになる為に理由も無く、それ程琅琊閣から下りることは無かった。(美女楽士が街に来れば、平気で半月も留まった)
 小さな何も無い町も多かったが、長蘇と二人で巡れば、山を下りる道程も楽しかった。

 老閣主が行方不明だが、そんな事を全く気にも止めず、瞬く間に刻が過ぎてゆく。



 長蘇が初めて、陽西という街へ下りた日から、ふた月が過ぎ、、、。

《そう言えば、剣の鞘も柄も出来上がり、甄平が持って来ると。
 さて、どんな仕上がりになったか、見に行って揶揄(からか)ってやらねばな。》
「クククク、、さぞかし不細工な剣になったろうな、、クククク、、。真っ黒な剣なぞ、有り得ぬ。私が作り直してやる。皆、私を、改めて見直すだろう。」
 藺晨は、そんな妄想をしつつ、長蘇の部屋へと向かった。
 この前、長蘇と藺晨が陽西に行った時、剣の鞘を頼んだ店に顔を出したら、鞘はあと四、五日で出来上がると。
 出来上がるまで、街に留まれば良いのだろうが、女装した長蘇は、そんなに何日も一所(ひとところ)に留まる事は出来なかった。ただの女装ならまだしも、この全身白い毛で覆われた姿を、うっかり晒すとも限らぬ。
 ましてや長蘇の正体『林殊』は逆賊であり、梅嶺で死んだ事になっている。
 秘密を暴かれて、良い事は何一つ無い。
 なので、玉佩を店主に見せて、これを持つ者に剣を渡せと指示をした。甄平にその玉佩を預け、もののついでに取りに寄らせた。
 甄平には、江左盟の連絡役を頼んでいた。
 江左盟の様子や、決定すべき事案など、繋ぎ役として各地を回っていた。
 一回りして帰りに皮店に寄れば、多少仕上がりが遅れていようと、間違い無く鞘に収まった剣を、受け取ることが出来るだろう。


 藺晨が長蘇の部屋に入れば、甄平が長蘇の前に座っていて、甄平からの報告を受けていた。
「甄平、剣を受け取ってきたのだろう?。早く見せろ。」
「これは若閣主。」
 恭しく甄平が拱手して挨拶する。
「挨拶などは良い。剣だ、剣。早く見せろ。」
 普通は拱手を返すものだが、藺晨にはその気が無い。甄平はむっとする。
『一緒に見ようと、お前が来るのを待っていたのだ。私もまだ見てはおらぬ。』
 長蘇は藺晨に笑いかける。そして、藺晨へ包みを渡せと、甄平に顎で伝えた。
 包みを受け取ると、早速、藺晨は包まれた布を外していった。
 些か藺晨にむっとした甄平だが、武人として剣への興味には勝てない。『絶対に開けるな』と、長蘇から念を押されて取りに行かされたのだ。甄平とて、見たくて仕方が無い。藺晨ににじり寄って、包みが開けられるのを待っていた。
 長蘇の横に控えていた黎綱も、藺晨の近くに行き、藺が包みを解く手を、じっと見ていた。時折、長蘇と藺晨二人が話す『噂の剣』、黎綱も見たくて仕方がなかったのだ。
 布包みを解けば、油紙で大切に包まれ。藺晨はゆっくりと開いていく。
 開けられた油紙の中から、黒光りする、剛剣が現れる。
「おぉ〜〜!!!。」
「なんと!!。」
 甄平と黎綱が驚嘆の声を上げるが、、。
「何だこの不細工な鞘は!!!。」
 藺晨の高い声が裏返る。
「は?。」
 甄平が、藺晨の反応に呆気に取られ、聞き返す。
作品名:再見 五 その三の一 作家名:古槍ノ標