再見 五 その三の一
男という生き物は、緊張状態が長く続くと欲情が増し、この際何でも良くなって、手近にある「変なモノ」でも代用したくなるらしいからな、、、、。》
藺晨は自分を戒め、長蘇を起こさぬ様にそっと体を離し、馬車の外へ出た。
頬に当たる、冷たい夜気は、気持ちが良かった。
焚き火が消えかけていた。夜明けまでは、まだまだ時間があるだろう。火を絶やしてはいられぬ。
太い枯れ枝を何本か足して、火を大きくした。
真っ暗な森の樹々の上には、空いっぱいの天の川が渡っていた。
「見ていろ、父上が側に居れば万全だが、もし父上が帰らなくても、私が長蘇の姿を戻してやる。
長蘇が望んでいるのだ。この私が死なせたりするものか。
天上の神よ、長蘇の境遇を憐れむならば、あまりヤツに険しい道を用意するな、、、結果、治療する私が大変になる。神の尻拭いなぞ、真っ平だ。」
藺晨は天を仰ぎ、静かに目を閉じた。
焚き火に当たり、藺晨の体は温まった。
「さ〜て、長蘇、抱いてやるぞ。私が恋しくて待ちきれないだろう、、、、、ま、恋しいのは、私の体温だろうがな。」
藺晨は、傍の石を拾い、馬車の中に消えていった。
長蘇の背中に手を回し、長蘇を抱き寄せる。
長蘇の体は、冷えている事には変わりは無いが、声を出す程冷たいとは感じなかった。
規則的な浅い呼吸で、眠っている。
《命の危険は回避されたのだ。良かった。》
頭を巡る思考も眠気には敵わない。
満天の星空の元、呼吸をするのは藺晨と長蘇だけ。
長蘇の呼吸を感じながら、藺晨は眠りに落ちていった。
───────糸冬───────
作品名:再見 五 その三の一 作家名:古槍ノ標