Hello!My family 第1章
「……お兄ちゃんも一緒は、やっぱりダメ?」
不安げにポツリと言って、禰豆子がまた義勇に縋りつく。まろい桃色の瞳で見上げられた義勇は、どう答えたものかと言葉に詰まった。
炭治郎は休みなのだからと言い聞かせたときには、納得した様子だったのに。だがこれは、うれしい変化だと思う気持ちもある。
禰豆子はわがままを言ったことがない。なのにこんなふうに一度言い聞かせたことを再度ねだるなど、今までの禰豆子からすれば喜ばしい以外のなにものでもなかった。
とはいえども、炭治郎に無理を強いるつもりも、義勇にはないのだ。ただでさえ堅苦しい場で気疲れもしているだろう。その上、休みだというのに家事どころかつき合いで外出までさせるなど、頼めるはずもない。
逡巡する義勇に、禰豆子がしゅんと眉を下げただけでなく、炭治郎までもが、また悲しげに瞳を揺らせた。
どうすべきだろう。迷う義勇が言葉を探しているうちに、現状打破の一言は、当の炭治郎の口から発せられた。
「禰豆子、俺のことは気にせず楽しんでおいでよ。俺はひとりでも大丈夫だから」
「……俺たちと一緒では、おまえの気が休まらないだろう? ひとりのほうが嫌なのか?」
気詰まりだろうから自由にしていてもらおうと思ったのに、ひとりでも大丈夫とはどういうことだろう。わからずにまじまじと炭治郎を見つめた義勇を、炭治郎も、ポカンとした顔で見返してくる。
「だから、言葉足らずを自覚しろっつってんだろうがァ」
やれやれと言いたげな不死川の声に、思わず義勇は首をかしげた。けれども視線は炭治郎からそらさない。炭治郎もまた、見開いた目をじっと義勇に据えている。
「じゃ、禰豆子ちゃんも喜ぶし、みんなでお出かけしましょ! えっと、炭治郎くん? それでいいかなぁ?」
「甘露寺がこう言ってるんだ、おまえらさっさと支度しろ」
甘露寺と伊黒の言に、へぇへぇと不死川も立ちあがった。義勇に断りを入れるわけでもなく、プリンターなどを勝手知ったる他人の家とばかりにしまいに行くその背を、義勇は思わず視線で追いかけた。炭治郎も同様だ。
そうして再び顔を見あわせたとき、クスリと笑ったのは炭治郎のほうだった。
「義勇さんが迷惑じゃなければ、俺も一緒に行ってもいいですか?」
「おまえを迷惑だと思うことなんてない」
事実だから、ためらうことなく義勇は即答した。頬を淡く染めた炭治郎は、義勇が望むそのままの、幸せそうな顔で笑った。
《第2章へ続く》
作品名:Hello!My family 第1章 作家名:オバ/OBA