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【FGO】酒場の騎士

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 一際顔色を失ったベディヴィエールが声の主の方に振り返る。昨晩の女海賊だ。
「昨晩はみっともない所をお見せして……」
 蒼白ながら席を立とうとして女海賊が押し止める。
「みっともないはお互い様だろ! なに、そう言う日もあるさね!」
 女海賊はそう言うとからからと笑った。昨晩は自分よりも飲んでいたはずなのに、大変に元気である。自分もそこまで酒が弱いわけではないはずなのに、昨晩はどういう訳か深酔いしてしまった。しかも、彼女を送って行った覚えもない。通常の起床時間を大幅に過ぎて目を覚ました時には、宿で円卓の面々と共に床に転がっていたのだ。
「……いくらか貴方の気が紛れたのならいいのですが」
「紛れた紛れた! 充分さね」
 あっははは、と女海賊が笑う。昨日の晩の鬱屈した陰などどこにもないほどだ。
「それならこの二日酔いも報われましょう」
 ベディヴィエールがそう言うと、途端に女海賊が真っ赤になってソワソワし始める。
「どうかなさいましたか? レディ?」
 女海賊は不自然なほどに視線をあちこちに泳がせ、切羽詰ったような顔でカウンターに座る立香を見た。
「あ……、あ、あっ! このガキはアンタの知り合いか?」
「はい。この方は私のマスター。この方の剣となり、共に戦うと誓った方です」
 まだ具合が悪そうながら、ベディヴィエールが若干胸を張るように誇らしげに答える。
「主人《マスター》? オマエ、コイツの雇い主なのか? ガキのクセに?」
 ベディヴィエールの言葉を聞き咎めて、立香に問うてくる。
「まあ、ガキは本当だけどね……。雇い主というか、とある目的があってね。それを共に目指す仲間なんだ」
 立香が困ったように笑う。「マスター」と言う言葉は聞きようによっては想定外の誤解を生むこともある。何人もの人を従えるように見えることから、大金持ちの子供やどこぞのやんごとない立場の子供だと思われて、余計なトラブルになったこともなくはない。
「ハッ。仲間でも雇い主でもどっちでもいいさ。オマエ、コイツのやたらキザったらしい言い回しをやめろと言ってくれ。こんな場末に御大層な貴族の女なんざいる訳もねぇのに、やたら持って回った言い方しやがって、こそばゆくって仕方ねェんだよ」
「お気に障りましたか、レディ」
「ホラ! これだよこれ! って言うか、コイツの仲間もどいつもこいつも似たような話し方しやがって、むず痒いんだよ!」
 女海賊が顔を真っ赤にして、立香に訴える。
「ええ……、困ったなぁ。ベディもそうだけど、皆騎士だからなぁ。女性と見るともう自然にそう言う話し方しちゃうし……」
 立香も返答に困る。サーヴァントたちもカルデアの職員も、もう当たり前として受け入れてしまっている。最初は戸惑ったり、恭しい態度にきゃあきゃあと騒いでいたりもしたようだが、それで苦情を申し立てられたことはない。だけに、こうして文句を言われるのは初めてなのだ。
「とにかく! ここはお城でもねェし、舞踏会でもねぇんだ! もっと乱暴でいいんだよ! 頼んだぜ!」
 ばしん、とベディヴィエールの肩をどやして、女海賊はそそくさと逃げてしまう。酒場に来ていた他の海賊に何か言われたのだろう。「うるせぇな! ほっとけ!」と怒鳴る声がした。
「ご不興を買ってしまったようです」
「照れちゃったんだよ」
 しゅんと落ち込むベディヴィエールに、立香は堪えきれずに笑いながら答える。
「カルデアの皆はさ、お姫様だったり女王様だったり、女神様だったりいろんな女性サーヴァントがいるじゃない。女性の職員の皆も騎士として紳士として接してくるベディたちの態度を当たり前に思う人たちも多いし、それがベディとしての当たり前なら文句を言ったりする人たちもいないよね。それにそう言う態度で接してくれるのが嬉しい人も多いと思う。けど、彼女にはそう言う風に接してくる人はいなかったんじゃないかな」
 立香の言葉に、ベディヴィエールは目をぱちくりとさせた。
「初めてで、びっくりして照れちゃったんだよ」
「そう……、ですか」
「そうそう」
 ベディヴィエールは暫くポカンとして、ふっと優しく微笑む。彼が笑った理由を問いたげな立香と目が合う。
「その……、あの方の振舞いが大変に可愛らしいと思いまして」
「それ、彼女に直接言っちゃダメだよ」
 立香が笑いながら、それでも釘を刺してくる。ベディヴィエールはそれに、はい、と頷いた。
「ベディ、夏、楽しんでる?」
 立香が笑って尋ねた。それにベディヴィエールはふむ、と一瞬考え込む。円卓の皆に巻き込まれてここへ来て。宝探しなどと言いながら深酒を繰り返す自堕落な日々に文句を言いつつ付き合ってしまったり。いつの間にか頼まれた酒場の用心棒に、常連たちとのやりとり。文句もなくはないが、これまでの自分の生活やカルデアでの日々とはかけ離れた時間に、確かにワクワクしていないとは言えなかった。
「ええ。そうですね。はい、とても」
 ベディヴィエールはそう言って立香に微笑んだ。

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作品名:【FGO】酒場の騎士 作家名:せんり