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「話がおんなじだもんね……。わからないわけ、ないし……。でも、まいやんも、何も変わらないし、どうしていいかわからなくて……、信じられなくて」
「真夏、もう」
「本当はまいやんに顔合わせられないの……。ごめん！」真夏はまた、必死に私に謝った。強く手を合わせて、いっぱいに眼を瞑って。「まいやんも大事だけど、彼の事も本当に好きで……。でも、そのうちに、だんだん自分が嫌になっていって……。まいやんの事も、…いつのまにか……」
「真夏」
　真夏は、ゆっくりと私に顔を上げた。
　いっぱいに溜まった真夏の感情を、私は素直に受け入れる。
　泣いているの……。
　私と同じで、真夏は、泣いている……。
「同じなの……」
　私の声も震えていた。
「私なんて、自分が最低に思えて……みにくくて……」
　真夏は、もう顔を両手で隠して泣いている。
　私はもう、顔を隠すつもりはない。
　鼻水が出ていても構わない……。
　今は、親友の事を、ずっと見つめていたい……。
「ごめんね、まいやん。沙友里から聞いたの……」
　震えた声が、私に語りかける……。
「ずっと……それまでまいやんに嘘ついてたのが、もう……苦しくって……沙友里に全部打ち明けたら、そしたら……」
　くしゃくしゃになって、真夏が泣いている。
　胸に、どうしようもなく、熱い何かが込み上げてくる。
　それだけがあれば、私は良かったんだ。
　それが欲しかったから、私も真夏も、そうしたの……。それを、信じていたかった。
　親友なんだから、早くそうしたかった……。
　やっと……。
「まいやんが全部知ってたなんて、思わなかった……、それが理由で別れてたなんて、知らなかった……。ずっとね、何も知らないまいやんを羨(うらや)ましいって、思ってて……。別れたってきいたあとも、どうしても、何も知らないくせに、普通にまいやんが別れた事が、むなしくて……、まいやんを責めたくなっちゃって……」
　真夏は私と同じだった。
　大切だからこそ身を引いた私は、その後で、自分の変化に苦しんでいた。そして、真夏もまた、あの辛辣な苦しみを、味わっていたんだ。
　私には、真夏がどうして涙を流しているのかが、わかるの……。
　もう泣いてほしくない……。
　あなたは、本当は、ずっと光のままでいてくれた。
　私も、これからは、自分を嫌悪したりしない。もう、それは終わったの……。
「まっ、真夏……わ、私もね…。おっ……おんなじ、だから」
「うそ……。まいやんは……」
「本当だ……だから」
「ほ、……本当？」
　もう、私達はぐしゃぐしゃになって、笑っていた。鳴き声も鼻水も気にせずに普通に話している。
　眠ってしまっている人は、」もうあんまり関係ない。ただの最低野郎だ。
　最高に気持ちがいい。
　私は一生、この日を、忘れない。

　そして、私の親友は、絶対にこの二人なんだ……。

「え、うそ……、沙友里？」真夏はまた、驚いた顔をした。
　私も、実は心臓が飛び出そうになっていた。

　そこに、沙友里が来たのだから。

「こんばんは、お二人さん」
　はにかんだ笑顔と関西交じりの言葉で、いつもみたいに、私達を見つめる。
「どう、して？」私は、そう言ってから、真夏を見つめる。「…一緒だったの？」
　真夏は、力いっぱいで、首を振った。
「どうして……、沙友里が、いるわけ？」
　私達の涙は、そんな自由な関西人の登場により、程よく止まっていた。
「何で、沙友里……」
「いや、バイクに放火でもしたろうかな、と思って」
　簡単にそう言って、手に持っていたライターに火をつけた。
　そして、彼女は真夏の足元を見て、私達と同じ笑顔を作った。
　私は二人を見る……。
　私は、何も間違ってはいなかった。
　一生忘れない。
　この日を、私は宝物にする。

　一生、そばにいてね。
　一生、ずっとそばにいようよ。
　一生だよ、一生だからね。
　一生……。

「マジで、ほんまに、これってガチで自然に集まったの？」
「っていうかさ、真夏、何でピアス持ってきてんの？」
「だって、いらないもん」
「あそっか……。叩き返せばよかったんだ、あっちゃ～持ってくるんだった…や、違う、持ってきたんだ！」
「しっかし、住所知ってるだけで簡単にたどりつけるわけやわ。この大きさ……、絶対裏でなんか悪い事やってるわ～」
「だから、悪い事やってたんだって。うちらの裏で」
「そうだよ！」
「それは～、気付かないまいやんと真夏も悪いよ」
「何でよ～」
「悪くないっちゅうの。悪いのは向こうでしょうどう考えたって」
「まあまあ、いいじゃん。まいやんも真夏も、お互いを裏切らなかったんだから」
「うん…まいやん、ありがとう。ズッキュン！」
「沙友里もありがとね」
「同時期に別れてたんだよ、二人とも……」
「ええ！」
「うっそ！」
「それ知りながら、何も言えない私がいっちゃん辛かったって話でしょ」
「ちょ……ヤバい、真夏と沙友里に、また涙出てきたかも……」
「うう～、貰い泣いちゃう～」
「泣くんかい！ もうええやろ、泣かなくっても」
「真夏～…、沙友里～……、へへ、ふぇ～ん……」
「まいやぁ～ん、沙友里～……あふ～ん……」
「泣くんかい！ たく、私はどうすればいいの、私だって泣きたいよ」
「ふ～……う……泣いてよぉ」
「アホ……。もう、泣いとるわ……」

　これまでと変わらない、最高の夜だった。もう、私はあの気持ちを味わう事はないのだろう。真夏と、沙友里と……。そして私。この三人が揃えば、もういう事はない。
　これからは、もっと早く、三人で話し合う。たまに喧嘩して、たまにこっそり泣いて、また同じく笑っているだけでいい。それが、最強だから。
　その日は大きな月が出ていた。でも、見上げた夜空には、月は隠れてしまっていた。それを残念だとか、そんな愚痴を叩きながら、私達は最低野郎の庭でずっと談笑していた。
　この日を忘れないように……。そんな事を沙友里が言って、携帯電話で記念写真を撮る事になった。お腹の底から大きく笑いながら、私達はなぜか、墓場よりも嫌いなその場所で、満面の笑みのピースサインを作っていた。馬鹿だよねって、真夏が笑って、腹が減ったとかって、沙友里があくびをした。
　心地良い風が吹いていて、本当に全てを洗い流すには、最高の夜だった。
　もう感情的な会話は一切なくて、ただ、ちょっと落ち着いたり、盛り上がったりって、そんないつも通りの会話。真夏は眠そうにしゃがんで、沙友里は疲れたようにしゃがんだ。私は、たぶん明日の予定を考えながら、しゃがんだと思う。
　できる事なら、どうしようもなく楽しいことになってくれる事を三人で夢想しながら、三人で寄り添い合うように、くっ付き合って……。私達はロケット花火を点火した。



　　　　　　　　　二千二十一年十一月十八日　完




　あとがき
　　　　　　　　　　　　　作タンポポ

　この作品は、タンポポ的には少しだけ長い短編集になりました。まいやんが主人公の短編小説ですね。実に気に入っています。じっくりと読み込んでほしい一作となりました。