再見 五 おまけの詰め合わせ〜
その二『伝説』
「姿美しい、女子の真っ白な狐の妖が、現れた。白い毛は陽に透けて、まるで銀の髪の様だった。」
「その美しい銀狐が、熊王を倒した!!。」
「銀狐は琅琊閣の若閣主の想い人らしい。」
「琅琊閣の若閣主は、銀狐に入れ上げ、魂を抜かれた。」
「熊との闘いで正体を知られた銀狐は、若閣主の元を去り、若閣主は傷心の余り世を捨て、旅に出た。」
「銀狐には藺晨の子が宿っており、藺晨は銀狐を探す旅に出た。」
「だから若閣主は、世間に姿を現さなくなった。」
「琅琊閣にも居ないそうだ、、。」
等、等、等、等、、、、、。
人々の興味の赴くまま、勝手に語られる二人の関係。
そして更には、講談なども出来上がる。
「『銀晨恋』
〜妖の銀狐と藺晨の恋物語〜」
千年を生き、その修為を持つ銀狐がいた。
銀狐は人の姿になり、琅琊山の山奥に、静かに暮らしてした。
人の姿では有るのだが、修為が足りぬのか、黒髪にはなれず、髪は銀のままだった。
人の姿を留められる妖ならば、人の世界へ行き、現を楽しむのが妖という物。
銀狐が、一人ひっそりと暮らすのは、銀色のこの髪のせいだった。
銀狐の名は、銀香という。
ところが銀香は、ある日、琅琊閣の若閣主を見初めた。藺晨も、姿美しい銀香に惹かれるのに、差程の時は要さなかった。
艶やかな美しい銀香だったのだ。
しかも正義感もあり、悪を許さない妖。
二人は恋に落ちた。
二人の世界は薔薇色で、世界が終わろうとも、自分達は変わること無く、互いを慈しみ、添い遂げようと誓いを立てていた。
琅琊閣の老閣主は、藺晨の父親であり。二人は包み隠さず、全てを打ち明け、婚姻を認めてもらおうとしたが、老閣主は許さず、、、、、藺晨を琅琊閣から追放、せずに、老閣主が、自ら琅琊閣から出て、放浪の旅に出た。
煩い父親が居ないことをいい事に、銀香と藺晨、楽しく逢瀬を重ね、愛を深め合っていた。
とある日、藺晨は銀香を楽しませようと、銀の髪を紗の付いた笠で隠し、街へ連れ出した。
二人は街で、たまたま街で暴れている、怪力熊王と出くわしてしまう。
器量の良い、女、子供を、拐って行っては、妓楼などに売り飛ばす熊王。子女を持つ親は、拐われてはならぬと、紗を付けた笠を被らせたり、子供に男装をさせたりしていたのだ。熊王は、美女とあらば、見境がない。美しい銀香なぞ、直ぐに熊王に目を付けられよう。
藺晨は美しい銀香を、熊王に奪われてはならぬと、銀香を気絶させて、人の目の触れぬ所に隠す。
そして藺晨は一人、熊王に立ち向かう。
だが、奮闘虚しく、ボロクソに熊王にやられ、息も絶え絶えに、、、。
藺晨は銀香が守れた事に満足をして、静かに死ぬ覚悟をした。
そこへ一陣の風が、、。
銀香の登場。
「お前、私の美しい男を、よくも酷い目に!。
この醜男め!、手加減などせぬ!、思い知るがいい!。」
(聴衆どよめき、大歓声。)
銀香は怒り、熊王を一刀の下に切り捨てた。
(聴衆、やんや、喝采。)
銀香は熊王を退治すると、藺晨の元へ駆け寄り、意識の薄れる藺晨を抱き起こす。
「旦那様、、何という愚かな事を、、。
私だけの旦那様では無いというのに、、、。」
「お前、、、それはどういう、、。」
「旦那様、私のお腹には旦那様の子が、、。」
そう言うと、銀香は泣き崩れ、、、。
「何と、お前と子が無事ならば、何も心残りは無い。
子を、、私の子を頼んだよ。、、私は逝く。」
藺晨はそう言うと、銀香が抱く藺晨の体から力が抜け、その重みが銀狐の腕にずっしりと掛かる。藺晨は絶命したのだ。
「何を仰るの!、私が旦那様を助けてみせます。」
銀香は、藺晨の体を横たえると、己の力を振り絞り、体内の霊力を集めた。
銀香の体は光に包まれ、銀香は藺晨に口付けをする。
銀香は、渾身の千年分の霊力を藺晨の体に注ぎ、藺晨の体は見る見るうちに回復をする。
長い口付けの後、銀香の唇が離れると、藺晨の意識が戻り、ゆっくりと眼を開く。
藺晨の傍には、美しい銀狐が寄り添っていた。
「銀香!、、。」
『旦那様、お別れですわ。』
「何を言うのだ、銀香。私とお前は決して離れぬ。私がお前を守る。」
『旦那様、、幸せでしたわ。
私は妖の掟を破り、旦那様と契りを結んでしまった。
、、、、この事は、私への天罰なのですわ。』
「銀香!、銀香!。」
銀香は藺晨に顔を擦り寄せる。
藺晨は銀香を抱き締める。
だが、艶やかな銀色の毛が、藺晨から不意に離れていく。
「さようなら、、旦那様、、銀香は遠くで旦那様の幸せを祈っております、、、。」
「銀香!、行くな!!、銀香───!!」
銀香は振り返らずに、建物の屋根へ飛び、駆け去って、あっという間に見えなくなった。
銀香の霊力で、生き返りはしたものの、体は重く、藺晨は銀香を追う事が出来ない。
ただ銀香の名を呼び、泣き崩れるだけだった。
藺晨は琅琊閣に戻るが、一人残された藺晨は、生きる気力を失った。
ふと見れば、藺晨の指には、かつて銀香の髪で編んだ、指輪がかけられている。
まるで夢で有ったかのような、美しい思い出だけが、指輪と銀香の香りと共に、藺晨の体に残っている。
(聴衆、号泣。)
時は過ぎる。
時が過ぎようとも、少しも傷まず、変わらずにある、銀香の指輪。
指輪に口付ければ、昨日の事のように、蘇る。
「銀香、、今、どうしている?。
子は、、子はもう生まれただろうか。」
無性に銀香に会いたくて仕方がない。
「銀香を探しに行くのだ。銀香無しには、私は生きられぬ。」
藺晨は銀香を求めて旅に出る。
抜け殻のようだった藺晨には、覇気が戻り、銀香を探し出すという目的は、その足取りを力強いものにしていた。
この広い天下、藺晨と銀香は、いつか巡り逢えるでしょうか。
天の神々も無慈悲では無い。
きっといつか、親子三人が睦まじく過ごす日々が訪れましょう。
さて、、、
ここは一転、琅琊閣の長蘇の部屋。
甄平は江左盟からの連絡と、世間の情勢等を報告していた。
長蘇と黎綱の他に、暇を持て余しては長蘇の部屋に入り浸る、藺晨がいた。
「、、、てな物語です。」
甄平が一連の講談の内容を、備(つぶさ)に聞かせた。
「何だと!、巷でそんなものが!!。」
藺晨は扇子をぱちんと鳴らし、眉を顰めている。
「そうですよ〜、銀香の出会いに肖(あやか)ったのか、紗付きの笠を被った女子が、街の中、うじゃうじゃいますよ。
多分、若閣主が街に出れば、笠女子が群がりますよ。」
「うは、、、私に断りもなく、実名を使うとは、けしからんな。」
甄平の言い様に、藺晨はうんざりした。
甄平は覚悟を持って、藺晨に向かって話している。
藺晨は逃げられぬ様だ。
「誤魔化されませんよ、若閣主。
私が推測するに、この話は半分は事実なのでしょう?。
若閣主は、宗主を女装させて、共に街へ行ったのでしょう?。
挙句の果てに、宗主が熊王を退治したと!。しかも宗主の姿を見られたと!!。宗主や江左盟にとって、これがどれ程、危険な事だと思っているのですか!!。」
作品名:再見 五 おまけの詰め合わせ〜 作家名:古槍ノ標