アイスソーダ
振り返りざま、近くにあったゴミ箱に投げ入れたソーダアイスの棒と一緒に、投げつけるように言い放つ。二本の棒はゴミ箱の底で跳ね返って、鈍くこもった音を立てて落ちる。肩で息を吐いたハジメの言葉も、底に跳ね返って反響するかのようだった。アイスぐらいキザったらしければ挨拶になるのかも知れないが、たとえそうだとしてもハジメの中ではあの挨拶は女の子にするものであって、男には絶対にしない。それにさっきのは挨拶のタイミングではなかった。男同士でもああいう冗談はあるかも知れなくても、ハジメはその手の冗談は嫌いだし、大体そんな冗談を交わせるほど親しくはない。
アイスは勿体つけた仕草で肩をすくめた。ほんの冗談に何をそんなに怒るのかわからない、と言わんばかりだ。それがまた、ハジメの神経を逆撫でする。
「あんたみたいに何でも冗談で曖昧にしようとするほど僕は器用でもないし、臆病でもないんだ」
ダズルのように目の前のことに夢中になったら、他が一切見えなくなるほどのひたむきさはない。それでも一度湧き上がった感情を、スイッチを押すように切り換えられるほど、ハジメは器用ではない。ひとつのことに本気になりもするし、心も傾ける。そしてその傾きの幅は、すぐに“冗談だった”で片付けるアイスよりはずっと大きいはずだ。
言い捨てたハジメを、アイスは黙ってじっと見上げている。その青い目に浮かんでいる感情は何か、ハジメには探りかねた。驚きにも興味にもその両方にも見えたが、ハジメはそれ以上アイスに視点を置かず、目を逸らした。
「ごちそうさまでした!」
やはり声は投げつけるような調子になった。腕の中でムウマがまた含み笑いをしている。パートナー甲斐のない薄情さだが、そんな意地悪で薄情な彼女をパートナーに選んだのは他ならぬハジメなので何も言えない。ククク、と薄い震動となって伝わってくる含み笑いをムウマから感じながら、ハジメは今度こそ、振り返ることなく駆け出した。まだ少し、耳が熱かった。
アイスと会うと本当にイライラさせられてばかりで、腹が立つ。