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Byakuya-the Withered Lilac-6

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Chapter14 捕食者と捕食者


 そこには、深き因縁があった。その因縁とは、ツクヨミの『眩き闇(パラドクス)』へのものであった。
 ビャクヤとツクヨミは、『深淵』を目指して『虚ろの夜』を進み、二人は『深淵』の出現する場所までたどり着いた。
 そこには、『虚ろの夜』において最強の能力を持つとされる『偽誕者(インヴァース)』であり、能力者集団、『忘却の螺旋(アムネジア)』の総帥、『眩き闇』ことヒルダが待ち受けていた。
 今や『夜』における組織は、『忘却の螺旋』の一強であるが、ほんの少し前まで、それに迫る組織があった。
 その組織の名は『万鬼会(ばんきかい)』。かつてツクヨミが身を置いていた組織である。
 その組織の長、『鬼哭王(きこくおう)』オーガと『眩き闇』ヒルダによる、激しい戦いがあった。その戦いに敗れ去ったのは、『万鬼会』であった。
 ヒルダは、オーガとその仲間の命まで取るつもりはなかった。しかし、その戦いの決着と時を同じくして、悲劇が起きてしまった。
 ヒルダとオーガの戦いのすぐ近くに発生していた『深淵』の顕現が、二人の命を奪い、一人の行方不明者を出すことになってしまったのだ。
 ヒルダが直に手を下したわけではないが、ヒルダの存在そのものが、ツクヨミにとって因縁の根源であった。
 そのヒルダは、ビャクヤの手によって倒された。これでツクヨミの因縁は晴らされた。
 そして今、ビャクヤにとっての因縁の相手が出現した。
 雑居ビルの窓ガラスを破壊し、煌と朧の祭壇に入り込んできたそれは、暗闇の中でヒルダの死体を喰らっていた。
 暗がりでよく見えないが、血が辺り飛び散り、内臓と思われる塊が、びちゃびちゃと音を立てて床に散っている。
 血生臭さが辺りに漂い、その匂いが鼻を突くと、ツクヨミは気分を悪くして、口元を押さえて膝を付いた。
「大丈夫かい。姉さん」
「……ええ、平気よ」
 ツクヨミは、ビャクヤと行動を共にしながら、いくつも人殺しの場に立ってきた。人が目の前で死んでいく事には慣れているつもりであったが、人が文字通り喰われている場面には出くわしたことがなかった。
 やがて、突然現れた何者かは、ヒルダを喰らうのを止めた。その頃には、ビャクヤとツクヨミは暗闇に目が慣れていた。
 『虚ろの夜』の真っ赤に輝く月の明かりが、破られた窓から射し込み、祭壇を赤く照らしている。
 真っ赤な月明かり射すその先に、ヒルダを喰らった異形の存在が立っていた。
 細く長い四肢を持ち、腕は地面に付くほどの長さである。体長も高いというよりは細長く、三メートルに達しようかというほどであった。
 たてがみのある頭部には、祭壇に射し込む月光と同じく、赤い眼光が光っている。
ーーあの光。間違いないねーー
 ビャクヤは、気配、匂い、そしてその眼光から、異形の存在の正体を突き止めた。以前からビャクヤに接触していた、『偽誕者』の雰囲気を持つ虚無である。
 その特異な虚無は、ゆっくりとビャクヤらへと近寄ってきた。
「さんざん追い回してくれちゃったけど。やっとやる気になったんだね? 待ってたよ。この時をね」
 ビャクヤの因縁の相手が、ついにビャクヤと対峙した。
『……驚きだな』
「……っ!?」
「えっ」
 ビャクヤとツクヨミは、この上ない驚きに包まれた。頭の中に声が響いたのだ。
『小僧。貴様の体、いや、腹と言うべきか? そこに潜む異形に驚きを隠せぬ。そして娘の方、貴様も妙な波動を携える者よ、器割れか?』
 驚きに支配された二人であったが、ほどなくして平静に戻った。
「これは。驚きで声も出ないね。心に直接語りかけられるような。この感覚」
「ええ、もう何が来ても驚かないつもりだったけど、これは流石に、ね……」
 二人は、『夜』を知ってそれほど日が経っているわけではないが、『夜』に起こりうるあらゆるケースは想定しているつもりであった。
 その二人にとっての想定外が、今目の前に立っている虚無だった。
 虚無とは、一つの意思を持つことはなく、ただひらすらに顕現を求めて『夜』を彷徨う存在である。
 そんなただの獣同然のはずの虚無が、こうして意思を持ち、声でなく、頭に響く念話でその意思を伝えてきている。
「まさか虚無が、人さながらに意思を持っているなんて、ね……」
 虚無の顔に表情など存在しないが、笑っていると思われるように、虚無は大きく口を開けた。
『若くして肝の据わった娘どもよ。この獣の身体、見せ物ではない故、いちいち驚かれぬのは喜ばしいことだがな』
「そうかい。ならこちらから本題だ。どうして今日までずっと。隠れて僕を追いかけていたのかな? まあ。隠れてたとは言っても。バレバレだったけどね」
 ツクヨミには知らないことであった。
 別れて行動していた時に、こんなものに目をつけられる真似をしていたのかと思ってしまった。
『ふん、そうだな。小僧、貴様はこの身が虚無と同様、猛き虚無食いであろう。言わずとも分かる。貴様から漂う匂い、この獣の鼻はごまかせん』
 ビャクヤは眉根を寄せた。
「うっわー。まさか僕ってそんなに臭うのかな? 姉さん。どう? 僕って臭う?」
 ビャクヤは、ツクヨミに確認を求め、片腕をツクヨミに向けた。
「……別に臭わないわよ。どけてちょうだい」
 ツクヨミは、ビャクヤの腕を押し退ける。
『それから女。貴様も興味深い。貴様は顕現を一切纏わぬが、その身の一点のみに比類なき力を感じる。どうしたわけかは、知らぬがな』
 虚無の狙いは、ビャクヤだけではなかった。
『小僧、それに女。貴様らの持つ力の源、それをこの身は欲しているのだ。そこで一口だけ味見をさせてもらえないかと交渉を考えていた次第だ。そう、あくまで紳士的にな』
「さすがは紳士。一口とはずいぶん慎ましいのね。尤もその口、人間の頭くらい一息に噛まれ、飲まれそうであるけど。……あの女のように、ね」
 虚無は突然現れたかと思うと、ヒルダの死体を一瞬にして平らげてしまった。たとえ一口と言えど、どこを噛まれても致命傷になることは免れようもなかった。
「それにものすごい悪食ではなくて? あの女を喰らったのに、まだ喰らうつもりだなんて」
『我の主食は顕現だ。血肉では我が餓えが満たされることはない。貴様ら人間で言えば、水で飢えを一時的にしのぐようなものだ』
「そいつの言う通りだよ。姉さん。あんな獣と一緒にはしてほしくないけど。僕も顕現じゃないと空腹は満たされない。死体を貪ったくらいじゃあ。全然足りないんだよ」
 ビャクヤは、一歩前に出る。
「キミの取り引きだけど。こうしないかい? 僕も一口味見をさせてもらう。ここはフェアに行こうじゃないか。味に興味があるのはこっちも同じなんでね」
 ビャクヤは、ツクヨミに振り返った。
「いいよね? 姉さん」
 ここは戦ってもいいか、ビャクヤは確認を取る。
「いいわ、ビャクヤ。面白い相手だけど気にせずにやってしまいなさい。ただし、用心はすることね。その虚無、底が知れないから」
「心配してくれるんだ? ああ。それだけで頑張れる。さて。意思を持って喋る虚無。一体どんな味がするんだろう?」
 ビャクヤが笑うと、虚無も笑ったように口を開けた。
作品名:Byakuya-the Withered Lilac-6 作家名:綾田宗