Byakuya-the Withered Lilac-6
「それがキミの。姉さんの目的というわけか……」
「ええ、そうよ。そして叶う願いなら、以前のように親友になりたい……さて、話はここまで。私を煮るなり焼くなり好きになさい」
全てを語り尽くし、ツクヨミは目を閉じた。
「はーあ……」
ビャクヤは、ツクヨミに手を出すことなく、ただ大きくため息をついただけだった。
「やめたやめた。姉弟ごっこを辞めるのはやーめた。そんな話を聞かされたんじゃ。もうしばらく続けなきゃならなさそうだ」
「ビャクヤ、貴方……」
「キミのその傷。消せないというなら。僕がもう一度この爪で貫いて上書きしてやるさ」
ビャクヤは、地面に膝を付くツクヨミに手を差し延べた。
「ストリクス。いや。姉さん」
ツクヨミは、差し出されたビャクヤの手を取った。
ビャクヤは、その手を引き寄せ、ガバッ、とツクヨミを抱きしめた。
「ちょっとビャクヤ、こんなところで……!」
驚くツクヨミの耳元にビャクヤは囁いた。
「キミは姉さんの誕(う)まれ変わりだよ。僕の前から消えるなんて許さない。今度こそ姉さんを死なせない」
その囁きは決意のこもったものだった。
「……物好きな子、ね」
ツクヨミもビャクヤを抱き締めた。
「ただ付いてくるだけなら、好きになさい。少し鬱陶しいけどね」
「ははは。姉さん。言ってることとやってることが逆じゃないかい?」
「……うるさいわね。やっぱりここでさよならしてもいいのよ?」
そんなことはできようがないのはツクヨミ自身がよく分かっている。ビャクヤも知り尽くしていた。
「キミの抱擁は優しいね。姉さんの抱擁は骨が折れるかと思うものだったから……」
二人でしばらく抱き合った後、ビャクヤは、ツクヨミから離れて立ち上がり、もう一度手を伸ばした。
「大好きな姉さん。貴女(あなた)のその傷を塞ぎ癒す大役。この生命尽きるまでどこまでも行こう」
ビャクヤの、生命尽きるまで、と言う言葉を聞いた瞬間、ツクヨミは妙な感じになった。何故かビャクヤが遠くへ行ってしまうような、そんな嫌な予感がしたのだ。
ーー気のせい、よね?ーー
ビャクヤは、ツクヨミにとってその身を守る武器である。しかし、そのように割り切るにはずいぶん大切な存在となっていた。
「姉さん。どうしたんだい?」
「ビャクヤ、付いてくるなら約束よ。私から離れないこと。いい? 何があろうと、ね」
「変な姉さんだね。僕は姉さんをずっと見てるつもりだよ。さあ。早く帰ろう。姉さん」
ツクヨミはビャクヤの手を取り、朝焼けの中を二人歩んだ。
ビャクヤの戦いは続く。その魂(こころ)が果てるまで。
ーー全喰ーー
ビャクヤの中を蠢く何かが、ビャクヤの魂を喰らい尽くさんとしていた。
これから先に何が起きるのか、それは今の二人には知る由もない事であった。
作品名:Byakuya-the Withered Lilac-6 作家名:綾田宗