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Byakuya-the Withered Lilac-6

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Final Chapter その後の夜


 一組の男女によって、『虚ろの夜』にて最強を誇っていた女、『眩き闇』ことヒルダが倒されたという情報は瞬く間に『夜』に広まった。
 『忘却の螺旋』の総帥であったヒルダが打ち倒された事によって、事実上、組織は壊滅した。
 組織は、ヒルダをトップに三人の幹部が存在していたが皆、それぞれの理由によって組織を離れており、再結成がなされる事はなかった。
 組織としても最強を誇る『忘却の螺旋』であったが、幹部を除く末端の人間はまるで統率が取れていない烏合の衆であった。
 『虚ろの夜』を騒がせていた組織が壊滅した事により、『夜』はいくぶん静かになっていた。
 しかし、静かになったとはいっても、虚無は蠢き、顕現を追求する偽誕者は変わらず存在する。
 数匹の虚無と女の偽誕者が争っていた。
 真っ白な髪を血で濡らし、右目や腕に巻いた包帯は泥のような顕現に汚れていた。
 女は、一見死にかけの満身創痍となっているように見えるが、見た目に反して圧倒的な顕現を持っていた。
 強大な力を持つ顕現を、その小さな身体に宿しているために、女は虚無に落ちかけていた。
「ぜーんぶぶっコロす!」
 女は、五本の指に杭のようなモノを作り出し、人の運動能力を凌駕した動きで、自身を囲む虚無の群に当たった。
 女の手にある鋭利な黒い杭は、襲いかかる虚無全てを切り刻んだ。
 女は、虚無を杭の爪で鷲掴みにし、その腸ごと顕現を喰らった。
 真っ黒な血煙が上がり、顕現を奪われた虚無は、その身を霧散させていった。
 女は、杭の爪を使って虚無を捕らえ、喰らい続けた。虚無の血肉を顔中にさらしたその姿は、悪魔そのものであった。
「はぁ……はぁ……!」
 女は、興奮に息を切らす。
 不意に、辺りにパキッ、という音が鳴り響いた。
「おやぁ……?」
 女は、ぬるりとした首の動きで音のした方を向いた。
「やべっ! 逃げろ!」
 女の行動を隠れて見ていた集団がいた。その中の一人がもっと近くで見ようとして、うっかり枝を踏んでしまったのだった。
「にがさないよぉ!」
 女は杭を放った。杭は逃げ出そうとする男の一人の足に突き刺さった。
「ぎゃあああ!」
 すぐさま女は、痛みに叫ぶ男に近付いた。
「ぐうう……お、お助け……!」
「どうしようかなぁ?」
 女は、男の顔に爪を立てて掴み上げる。
「あ、そーだ。ちょーっと訊きたいことがあるんだけど?」
「わ、分かった! 知っていることは何でも話す!」
 女は、突き立てた爪をさらに深くする。傷を深くえぐられ、男は小さく悲鳴を上げる。
「蜘蛛野郎を知らない? ストリクスと一緒だったと思うけど」
 女の質問は漠然としていた。男は質問の意味も掴めていなかった。
「へ、一体何を言って……?」
「そっか。知らないんだ。じゃあバイバイかな」
 女は、空いた方の手のひらに杭を作り、男の胸を貫こうとした。
「まっ、待ってくれ! そんな感じの奴思い出したかも!」
「ふーん、じゃあ言ってみなよ」
「中学生くらいのガキと高校生くらいの女の事だ!」
 男の話は、今や『夜』では有名になっている。故に女の耳にも届いていた。
「そんなのうちも知ってるよ。バカにしてない?」
 女はすぐに男を殺さずに、突き付けた杭の先を男の胸にピタリとくっ付けた。
「待て、待ってくれ! 俺は見たことがある! 中学生くらいのガキが、背中に八本の鉤爪出してて、クモみたいな糸を使って戦って、倒した相手から顕現を吸い取っている所を!」
 男の言う話を聞いて、女は確信を持った。この男の言うことは正しい。それ故に、女はあの時、不意打ちを受けた屈辱感に苛まれた。
「そっかー。それじゃ最後にもう一個、そいつらはどこで見られる?」
「か、川沿いの広場だ。そこで虚無を喰っているっていう噂を聞いたことがある!」
 女は、知りたい情報は全て聞くことができた。
「そっかーありがと。これはお礼だよ!」
 女は、男に突き付けていた杭ごと腕を一気に突き刺した。
「ぐばっ! な、なん、で……!?」
 男は、自分の身に何が起きたのか、理解できぬまま絶命した。
 女は、男を貫いた腕を引き、男の臓腑と共に妖しく光る顕現の『器』を抜き出した。
 女は、えぐり取った臓腑はその辺に捨て、光を放つ『器』を一口に飲み込んだ。
「……んくっ、えぐってやる。むしりとって喰ってやる……!」
 女は、口の周りを濡らす血を舐めた。
「待ってろよ、蜘蛛野郎……」
 女は口角をこれ以上ないほどにつり上げるのだった。
    ※※※
 ビャクヤとツクヨミは、『夜』にて完全に有名な二人組となっていた。
 新興能力者集団、『忘却の螺旋』の『眩き闇』を討ち取った彼らは、他の偽誕者に恐れられる存在であった。
 一度顕現の食事をしようと、二人で『夜』に踏み入るとすぐに噂が広がり、『夜』から逃げ出す者がほとんどであった。
 能力に自信のある一部の者は、ビャクヤに戦いを挑むことがあったが、一蹴されるのが関の山であった。
 ビャクヤは、これまでに重ねた戦いによって、自らの能力に新たなる力を得ていた。それがビャクヤを強い偽誕者に変えていた。
 そんなビャクヤは、今宵もまたツクヨミと共に『夜』に来ていた。
「はあ……誰も彼も弱すぎてつまらないねぇ……」
 ビャクヤの姿を見て、戦いを挑んできた者が数多くいた。『眩き闇』ほどの能力を持つ者は、これまでのところ現れていない。
「あの女に、喋る虚無。それら超えた相手などそうはいないはず。それが頂点に立つ者というものよ」
「頂点。ねぇ。そんなの手に入れたって。つまらないだけじゃないか。相手がまだいるからいいけど。その内見つからなくなるだろうね」
 『眩き闇』に喋る虚無、メルカヴァという、強敵を倒し、ビャクヤは『夜』の下最強となった。
 しかし、ビャクヤにとっては全くもっていらない称号であった。
 このまま偽誕者を喰らい続ければ彼らの数が減り、比例するように虚無の数も減ると思われた。
「あーあ。どっかに強くて美味しい顕現を持った偽誕者か虚無いないかなー?」
 今の『夜』で最強となったビャクヤに及びそうな相手の存在に、ツクヨミは心当たりがあった。
 それは、今もこうして探している人物、ゾハルである。
 あの日出会って以来、ゾハルと思しき偽誕者の噂はよく耳にしてきた。
 ただひたすらに顕現を求めて『夜』を暴れまわる様子を、ツクヨミは聞いていた。
 あの時ゾハルは、ビャクヤの不意打ちで戦意を喪失し、逃げてしまったと思われたが、ゾハルの質を知っているツクヨミは、そうは思えなかった。
 ゾハルは、かなり嫉妬深い性格をしていた。その質はたとえ、虚無に落ちかけた今でも、意思を保てている間は変わっていないと思われた。
ーーこの『夜』の下、あの女亡き後、今のビャクヤの力に及ぶのは、ゾハルしかいないわねーー
 顕現を手当たり次第にその身に宿し、ゾハルはビャクヤを倒さんとしている。ツクヨミはそう考えていた。
「ビャクヤ」
 ツクヨミは歩みを止め、ビャクヤを呼んだ。
「ん? どうしたんだい。姉さん」
 ビャクヤも止まり、ツクヨミの方を向いた。
「『眩き闇』との大きな戦いがあってすぐだけど、間もなく、更に激しい戦いがあるわ」
作品名:Byakuya-the Withered Lilac-6 作家名:綾田宗