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Byakuya-the Withered Lilac-6

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「激しい戦いがある。なんて藪から棒に。なんの根拠があるのさ?」
「貴方は一度だけあの子に会っているわ。私の探している子、ゾハルに、ね」
 ビャクヤは覚えのない様子であった。
「なら『強欲』のゴルドー、彼の名なら覚えているかしら?」
「ごーよく……ゴルドー?」
 この二つの単語には覚えがあった。するとじわじわと記憶が甦ってきた。
「思い出したよ。半裸にコートの露出狂じゃないか。まさかあれとまた戦うのかい?」
 ゴルドーは自身の立場上、ヒルダの仇討ち、などということも考えられるが、紅騎士を狙っている限りその可能性はほぼない。
「彼を覚えているなら、思い出せるはずよ。彼のすぐそばにいた白髪の子よ」
 ゴルドーの事を思い出した事によって、ビャクヤの記憶はありありと甦ってきた。
「そうか! あのセミだね!」
 ゾハルは、ビャクヤの不意打ちの糸に巻かれた時、金切り声を上げ続けていた。蜘蛛糸に締め付けられ、叫ぶ様子を見てビャクヤはクモの巣に引っ掛かったセミの様だと考えていた。
「セミ? 何を言っているの?」
「そうか。やっぱりあのセミが。ゾハルっていう人だったんだね」
 ビャクヤは、自身に宿る顕現の獣によって、ツクヨミの真の名、ストリクスという名と、その他二人の名前を知らされていた。
「僕の巣網にかかってギャーギャー騒いでただろう? あれはまるっきりクモの巣にかかったセミだった。だからセミだよ」
「それでセミ……まあ、呼び方は……いえ、ちゃんと呼びなさい。私のかつての親友だったのだから」
 ツクヨミは、ビャクヤのゾハルへの呼び方を改めさせる。
「はーぁ。そんな呼び方してたら僕まで邪気眼扱いされそうなんだけど?」
 海外出身者であることを差し引いても、ゾハルという名はビャクヤにとって、口にするのは憚れるものだった。
「まあいいや。姉さんからの頼みだ。無下にはできないね」
 ビャクヤは、ツクヨミに従うことにした。
「そうそう。あの時は大変だったね。姉さんおもらしして。その上風邪まで引いちゃったからね」
 ビャクヤは、ゾハルと初めて会った時の出来事を思い出した。
 親友だったゾハルに殺されかけ、不意にビャクヤに助けられ、緊張の糸が切れたツクヨミは小水に沈んだ。
 ツクヨミにとっては思い出したくない過去であった。
「その話はやめてちょうだい。だいたい、風邪を引いてるって言ったら今の貴方でしょう?」
 ツクヨミの言う通り、ここ数日ビャクヤは、風邪を引いたように咳をしていた。
「そんなバカな。僕は愚かだからね。風邪なんか引くはずがないじゃないか……ごほ。ごほ……」
 ビャクヤはわざとらしく咳をした。
「まあ。たとえ何かの間違いで風邪を引いていたとしても。戦いには問題ないよ。さあ。そろそろ行こうか。ごほ……」
 ビャクヤの言う通り、戦うには問題はなかった。
 毎夜小さな『夜』に訪れては、虚無をその鉤爪で捕らえて喰らっていった。
 ごく稀に遭遇する偽誕者にも遅れを取るような事はなかった。
「ごほ……ごほ!」
 しかし、ビャクヤの咳は、止まる所を知らず、体力を少しずつ蝕まれていった。
 医者によると、風邪との診断であった。しかし風邪にしては、ビャクヤの症状はひどかった。それでも医者の診断は風邪であると変わらなかった。
 ビャクヤの病状とは逆に、再生しているものがあった。それは、ツクヨミの顕現である。
 ゾハルに割られた『器』が長い時間をかけて、ついに元通りとなった。
 大きな力こそないが、ツクヨミの能力『生命の樹(セフィロト)』は、他人の顕現に干渉できる能力であり、生命力を顕現に変換するか、その逆の事ができる。
 医療で分からないとすれば、顕現が関係しているものと思われた。
 そこでツクヨミは、元に戻った顕現を使用し、ビャクヤを見た。しかし、ツクヨミの能力を以てしても異常は見られなかった。
ーーこうなれば、仕方ないわね……ーー
 原因が顕現であるからには、治す手段も顕現になる。ツクヨミには、一つ考えがあった。
「ビャクヤ、ちょっといいかしら?」
 ツクヨミは、ベッドに横たわるビャクヤの元へ行った。
「どうしたんだい姉さん。あんまり僕に近寄るとうつるかもよ?」
「あなたの身体を治す方法が一つだけあるわ」
「なんだい。藪から棒に」
「あなたの顕現の源、『器』を割る。そうすれば、その症状は改善されるはずよ」
「…………」
 ビャクヤは何を考えてか、しばらくの間黙り込んでいたが、やがてため息をついた。
「はぁ。姉さん。『器』を割るなんて簡単に言うけど。姉さんには『器』を割る力がないじゃないか……ごほごほ……」
 ツクヨミの、ストリクスとしての能力は、『生命の樹』と言い、対象者の生命力を糧に顕現を増幅させる非常に変わったものである。
 そのような性質上、自分自身が戦うのには向かず、他の偽誕者に術をかける使い方しかできない代物。そのはずだった。
「私の生命力を私自身にかけて、顕現を得てあなたの『器』を割る。これまでやったことがなかったから分からなかったけど、最近顕現が戻って、術を私にかけることもできるのが分かったの。だから」
「だから。どうするのさ? ゾハルだったよね。姉さんの探す人は。その力はゾハルに使うべきだよ」
「それはまあ、あなたの言う通りね。けれど今のビャクヤじゃ満足に戦えるかも分からない。今は身体を治して、その後でも遅くはないわ」
「それで僕の『器』を割るつもりなのかい。けど、ゾハルもだいぶ顕現に侵されているんだろう? 悠長な事を言ってる場合じゃない……」
 ビャクヤは、ごほごほと咳き込みながらベッドから這い出た。
 日は沈み、真っ赤な満月が空にある。『深淵』を中心とした『虚ろの夜』がやって来ていた。
「……原因がなんだろうが。病気には食事療法が一番さ。『虚ろの夜』に行こう。姉さん」
 ビャクヤは、ツクヨミの返答を待たずして部屋を出ていった。
ーー私は、どうすれば……?ーー
 ツクヨミは、今の状況下に揺らいでいた。
 ゾハルの『器』を割り、最早望みは薄いが、叶うならば以前の関係に戻りたいと願っている。
 他方で、ビャクヤの身体を治してあげたいと心から思っている。
 いつしかビャクヤは、ツクヨミにとってとても大切な人になっていた。表向きは姉弟を演じているが、本心では恋慕の情が募っていた。
 愛するまでに至った相手が、病で弱っていく姿を見ているのは辛く苦しいものだった。
 友情か愛か、どちらを選ぶべきか、ツクヨミは迷ったままビャクヤの後を追っていった。
    ※※※
 最も多くの偽誕者が集まる場所がある。それは、大きな川の近くに築かれた自然公園、名はそのままに『川沿いの広場』といった。
 都市開発が進んでおり、開発途上の高架橋が真っ先に目に入る自然と都市が融合した場所であった。
 この場所は、ビャクヤがまだ能力に覚醒する前に、生前の姉とよく来ていた所でもあった。
 ビャクヤにとって、姉との思い出の地であったが、虚無や偽誕者が多く現れるため、すっかり血生臭い場所と化していた。
 ビャクヤとしては、思い出の場所であるからこそ、そこを汚す敵は許せず、その全てを逃がさず息の根を止めていた。
作品名:Byakuya-the Withered Lilac-6 作家名:綾田宗