Nosta -ノスタ-
「大地から掘り出す宝石は、もともと大地の物だから宝石としては不完全なものだ。だから、純度の高い完全な宝石を作ってみようと思ったのだ」
その言葉にフィンゴルフィンは驚きを持って、その輝く石を見つめた。
あの重い箱を使い、大地だけが秘蔵すると思っていた宝石を自ら作り出す…、それは仕組みの分からぬ者からはヴァラにも比するような、俄には信じがたい技だった。
「これは、空の星の光を集めて輝く力がある。だから、ここではこれ以上は輝かない」
「薄明の刻の前に都を出たのは、これを確かめるためですか」
「そうだ」
フィンゴルフィンは、今はフェアノールが自分のノスタなど完全に忘れていることを知った。
「兄上―――!」
遠くから呼ぶ声に、二人は広野を見た。
金髪のフィナルフィンが、手を振りながら馬を駆って近づいてくる。
「やっとお見つけしました!」
そう言うと、フィナルフィンは好奇心に目を輝かせて丘を駆け上って来た。
「地上で星が光っているように見えたので、何かと思ったのです」
それが兄フェアノールの新しい作品と聞いて、フィナルフィンは驚き、喜びの声を上げた。
「ヴァルダ様もきっと、イルマリンからこれをご覧になって、驚いておられるでしょうね」
「―――それで、お前達はなぜ、ここに来たのだ?」
「え?」
フィナルフィンは、フィンゴルフィンを見た。
「フェアノール兄上に、まだ申し上げていないんですか?」
「なんだ」
フェアノールは怪訝そうな目でフィンゴルフィンを見た。
「実は、兄上のノスタの会食に、兄上をお呼びしてくるようにと言われたのです」
フィンゴルフィンは重く口を開いた。
「…ですが、間もなく銀の刻になりますから」
銀の木が花開けばもう次の日。
兄のノスタは終了である。
フィンゴルフィンはそう言って、今日の騒ぎを終わらせようと思った。
この後は、もう子供達のノスタはすべてやめにしてしまうよう、自分が強く母に掛け合えばいい。
なんと言ってももう、弟のフィナルフィンさえ、父の宮廷で発言を許される歳になっているのだから。
「―――それが、兄上」
フィナルフィンは、フィンゴルフィンの言葉に首を振った。
「母上も姉上も、フェアノール兄上がお越しになるまで、会食は始めないと、ずっと頑張っておられるのです。それで、私がお二人を捜しに出されたのです」
「なんだって…。まるで子供のような意地の張りようだ…」
その途方に暮れたフィンゴルフィンの姿をフェアノールは見た。
もとより、自分がノスタなどを喜ばぬ事を、フィンゴルフィンは分かっていて、それで自分を起こさずに居たのだろう。
「行ってやる」
フェアノールは、自分でも意識せずそう言った。
「本当ですか!」
フィナルフィンが間髪入れずに言った。
「ああ…。お前達に私をこんなに捜し回らせたのだ、兄弟仲の良いところでも見せねば、義母上も甲斐がないだろう」
フェアノールはそう言って、光の弱まり始めた二つの石を箱にしまうと、馬を呼び軽やかにその背に飛び乗った。
半分の血の繋がりなどなければ、ありふれた友と言う関係を築く方法もあるかもしれぬのに…。
フィンゴルフィンは、午睡の丘を一別すると再び白馬を急かし、銀の光に満たされ始めた広野を、兄フェアノールの後を追って行った―――。
END
作品名:Nosta -ノスタ- 作家名:葉月まゆみ