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ショコラトルの魅了

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短く声を漏らして固まった彼女の姿に、エルフリックは眉をひそめた。
「·····なんだ、その反応は。まさか惜しくなったと?」
「·····『長寿の薬』がどのようなものかと思いまして」
「·····。言っておくが、一本でもキミの手元に残せばあの商人はまた遣いを付きまとわせてくるぞ。その瓶は諦めたまえ。─別の商人にもっと良い品を頼んでおいてやろう」
「·····ありがとうございます」
礼を述べるとロゼルタは瓶を手に取り、近くに置いていた小箱へと持っていった。中のシルクの布の中央にある窪みにそっと瓶を置くと、布の端を畳むように被せて納める。その一連の動作をエルフリックは静かに眺めていたが、箱の蓋が閉じられると突然声を上げた。
「待て、ロゼルタ」
そう言って席を立つと、蓋を押さえている彼女の手にそっと自らの手を重ねた。ロゼルタがその手に視線を落とすのを見ると、目の前の彼女と静かに距離を詰める。
「例の噂だが、もし、キミが望むなら」
彼女の耳元に口を寄せると、低い声で囁いた。
「─事実にしてもいい」
「·····え」
ロゼルタの視界に戻るように離れた彼の方を見ると、翡翠色の瞳がまっすぐに彼女を見ていた。混じりあう視線。流れる沈黙。一拍の間を置いてから、エルフリックはふっと口角を上げた。
「·····冗談だ」
包むように重ねていた手を離すと、エルフリックは再び席に着く。
「引き留めて悪かったな。·····もう戻っていいぞ」
「·····あ、はい」
ロゼルタは小箱を抱え込むと、振りかえってその場を離れていった。しかし数歩ほど進んだところで足を止めてから、どこか躊躇いがちに振り向いた。
「·····どうかしたか?」
エルフリックの問いかけに、ロゼルタは一瞬目を伏せた後、彼の方へと向き直る。
「殿下、私は」
静かにその先を待つ彼の前で、ロゼルタは言葉を続けた。

「私は─そのようなことは、望んでおりませんので·····」

「·····」
「·····」
「·····」
「·····、殿下?」
しん、と流れた何度目かの沈黙。どこか気まずさを含んだ空気の中、ロゼルタはそれにも構わず声をかけたが、エルフリックは額に手を当てて俯いた。
「·····いや、いい、何でもない。しかし正直だなキミは·····。ただ、物言いはいささか率直すぎるぞ·····。聞き分けのいい人間ばかりではない。断り方は、覚えた方がいいな·····」
「は、はい」
エルフリックの言葉にロゼルタは素直に返事をした。そして再び彼に背を向けると、今度こそ振り返ることなく部屋を後にした。

「·····『望んでおりません』と来たか。まあ、誘いに乗るとも思ってはいなかったが」
部屋の中で一人、エルフリックは小さく息をついた。
「優秀なことは認めるが·····、まったく、変わり者が過ぎる」
苦笑しながら呟くと、机の端に置いていた書類の束から一枚の資料を取る。ロゼルタが書いたものだ。
「まあいい、多少の無礼は許すとしよう」
まとめあげられた資料は洗練されていて、他の学者達よりも己が欲している情報に近づいていることがわかった。エルフリックそれに目を通しながら、静かに笑った。

「─見返りは大きいからな」
作品名:ショコラトルの魅了 作家名: