天空天河 一
二 梅長蘇
長蘇は、この童子こそが『至宝』なのだと言うことに、気が付いた。
痛みの余り、体を支える飛流の手を掴んだ。
体が雷にでも打たれた様に、衝撃が走る。
それは飛流も同じ様子だった。
『私を救える者はお前か?!。』
飛流もまた、自分の事を待っていた、長蘇はそう思った。
『来い!。』
そう叫ぶと、飛流は闇になり、長蘇を包んだ。
迷いは何も無かった。
暗黒の闇がぴたりと体に吸い付き、息ができぬ苦しさと、体中を針で刺される様な激痛と、頭の芯を悶えさせる、えも言われぬ快楽が、終わり無く続けられる。
痛くて苦しくて、辛さに、後悔をした。
──苦しい、、、苦しい、、、苦しい、、、。
この痛みと苦しみは、、何時迄、続くのだ、、。
ぁぁぁ、、、、。
だが、、この姿で何が出来る?。
私は地獄から蘇ったのだ。
痛い、、痛いんだ、、、。
、、、苦しい、、、。──
逃げ出したくとも、体は動かず、剥き出しの神経だけが、嵐の中に晒されている。
終わりが来るまで、ただ耐えるしか無いのだ。
──この痛みと苦しみに、終わりなぞ有るのだろうか、、。──
痛みと苦しみを注ぎ続けられて、、
幾時間、、
幾日、、
永遠の苦しみと思われたが、ほんの少しずつ、楽になるのを感じた。
目を凝らしても何も見えない闇の中で、『無』への恐怖を感じた。
狂気への一歩出前。
辛うじて正気でいられたのは、友、簫景琰を案ずるが故だった。梁都、金陵を出て以来、会ってはいない。もう、五年以上になるだろうか。
──謝玉と夏江に謀られて、赤焔軍は全滅した。
無論、謝玉と夏江だけの仕業ではない。
皆が、便乗して、赤焔軍を滅ぼし、祁王を処刑したのだ。
だがこれは、人の仕業だけでは無いのだ、、。
『魔』だ、、。
『魔』が、この梁を滅ぼそうとしている、、。
『魔』は人の心の中に巣食い、善良な者達を歯牙にかけた。
黒い妖魔が、、金陵に、、、。
『魔』を取り込んではならぬ。
我が身体、我が心、我が魂、、『魔』になぞ、乗っ取られるものか。
気をしっかりと持て!。
『魔』に心を許せば、謝玉と夏江の様になるのだぞ。しっかりとしろ!。正気を保て!。───
快楽の淵へと誘う『魔』。
『魔』の通りに導かれれば、きっと全てが楽になるのだろう。
──だが『魔』の手を取り、そこへ向かったなら、、我が、今、耐えている意味が無い。──
やがて長い時が過ぎ、長蘇の戦いにも、終わりが訪れる。
何かが割れた音がする。
そして、一筋の光が、目の前に差し込んだのだ。
凍えた長蘇の体は、一筋の光に温もりを覚えた。
目の前には、闇になる前の童子が。
、、少し大きくなっていた。
──、、、終わった、、のだ。
この童子が、目の前にいるという事は、、
私は魔に染まらずに済んだのだ。──
途端に長蘇は、安堵と、恐ろしい程の疲労に襲われ、意識が薄れる。
体には力が入らず、意識を保つ事など、もう出来なかった。