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ポケットいっぱいの可愛い。

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    ポケットいっぱいの可愛い。
                  作 タンポポ



       1

「みーなみちゃん!」風秋夕(ふあきゆう)は毅然とした笑みを浮かべ、「ん?」と振り返った星野みなみに語りかける。「可愛いのチャンピオンは、みなみちゃんだよ」
「えー?」みなみははにかんだ。
「俺達考えたんだよ、誰が可愛いの一番かってな?」磯野波平はソファにふんぞり返りながら表情豊かに言う。「みなみちゃんだったわけだな! 俺らの答えはさ」
「そう、なの?」みなみは稲見瓶(いなみびん)を見る。
「だね」稲見はにこやかに頷(うなず)いた。「思い出の倉庫がドラえもんの四次元ポケットのようなものだと想定して……、ポケットにいっぱいに詰まった可愛いは、みなみちゃんだった」
 港区の高級住宅街に秘密裏に存在する巨大地下建造物〈リリィ・アース〉。その地下二階のエントランスのメインフロア、その東側のラウンジにあるソファ・スペース。通称〈いつもの場所〉にて、乃木坂46一期生の星野みなみと、乃木坂46ファン同盟の風秋夕と稲見瓶と、磯野波平は談笑を楽しんでいた。
「卒業ってきいて、まさかと思ったよ。しかも、芸能界を引退だって、きいて……」夕は少しだけ表情を悲しげにして、笑った。「俺らのみなみちゃんが、いなくなっちゃうのか、てさ……」
「あー、うん」みなみも悲しそうに微笑む。
「卒業したら、また違う世界が広がるんだろうね」稲見はみなみを一瞥して言った。
「どうなんだろう……」みなみは稲見を見つめる。
「寂しくなったら、ここ、来いよな。みなみっちゃん」磯野はにこやかに言った。「俺らはいつっでもここにいっからよ!」
「うーん」みなみは磯野に頷いた。
「みなみちゃん、ここらへんで、ご一緒に夜食でもいかがですか?」夕はとびっきりのウィンクでみなみに言った。
「はいいりません」みなみはにっこりと笑う。
「ほら」夕は稲見と磯野を見る。「こうやって誘うとさ、みなみちゃん絶対断るんだよ……」
「なんか、そ。なんかあ、夕君には、ナンパされてるみたいな気分になるの……」みなみはそう言って苦笑した。
「ナンパ野郎だかんな」
「だまらっしゃい!」
「へー。じゅあ、夜食、何か食べる?」稲見はみなみにきいた。
「うーん。でもやめとく」みなみは稲見に言った。
「俺もフラれたけど……」稲見は笑う夕と磯野を見た。「ナンパなの、これは?」
「ちが、夜食は、食べないようにしてるから……」みなみは弁明する。
「んじゃちょっち呑むか? みなみっちゃん」磯野はにこやかにみなみに言った。
「あー、じゃあ。ちょこっと」みなみは人差し指と親指でちょこっとを作ってはにかんだ。
「優勝だ~~!」磯野はソファを立ち上がって両腕を上げ、叫ぶ。「エイドリア~~ン!」
「呑みたい気分だったか……」夕はにこやかに、笑みを浮かべた。「呑んじゃおうぜ、お姫様」
「なに呑むう?」みなみは夕を見つめる。
「ミナミでしょう」夕はとびっきりの笑顔で言った。「あーれ美味しいもん!」
「あー、じゃあ。ミナミ、呑むね」みなみははにかんだ。テーブルにあったメニュー表を稲見に、手を伸ばして手渡す。「はい……」
「優勝しちまった~~!」
「いつまでひたってんだ貴様は!」
「俺も、ミナミを呑もう」稲見はみなみに、にこり、と微笑んだ。「ご一緒します」
「どうも」みなみは挨拶をして笑う。
「俺もミナミ行くわじゃあ!」夕は磯野を座らせながら言った。
「んじゃー俺もな!」磯野はどすん、とソファにふんぞり返りながら言った。
「イーサン、カクテルのミナミを四つだ。至急頼む……」
 風秋夕は空中に語りかけた。すると、どこからかしゃがれた老人の声が、畏まりました――と、応答した。これはこの巨大地下建造物を統括管理しているスーパーコンピューターであり、その総称をイーサンといった。現代科学力により人格をも持つイーサンは、電脳執事としてここ〈リリィ・アース〉で仕えている。
 二千二十一年十二月三日。星野みなみが乃木坂46オフィシャルサイトの公式ブログにて、来年の二月頃に乃木坂46を卒業する事を電撃発表した。
 風秋夕の座るソファの背後に在る〈レストラン・エレベーター〉から、カクテルのミナミが四杯ほど届いた頃になって、フロアを支配していた楽曲が、シャニースの『アイ・ラブ・ユア・スマイル』から、チャーリーの『エブリワン・フォールス・イン・ラブ』(ft.MCD)に変わった。
「俺が最っ初に可愛い! って思ったのがみなみちゃんだぜ!」磯野はそう笑った後で、がばっとミナミを吞み込んだ。「ふあ~~……。みなみっちゃんがかーわいっくてよお! 一番はあれな、指望遠鏡!」
「指望遠鏡!」夕も磯野と同時にそう言っていた。「指望遠鏡のみなみちゃんはミステリアスだよな~」
「ブランコに乗ってるのが、みなみちゃんだよね?」稲見は騒ぐ二人にきいた。みなみは可笑しそうに笑っている。「みなみちゃんの眼が空に反映されていて……」
「そう!」と夕。
「超好き!」と磯野。
星野みなみは前髪を直しながら、微笑んだ。ミナミを一口だけ、呑み込む……。
「走れバイシクルのみなみちゃんも放っておけないはずだよ」稲見は口元を引き上げて言った。「あの踊りはね、今でも可愛いね」
「ティッシュ配りから始まったんだよな~」夕は懐かしい眼で囁いた。
「みなみちゃんは凍った滝にも登ったよね」稲見が言った。
「ああ~」みなみは大きな笑顔で稲見を指差す。「のぼったよ~。あれ、いっちばん辛かったかも!」
「あれたぶん、ダーリンと駅前さんじゃ出来ないぞ」夕は短く笑った。
「あの短時間で、あれを制覇するには、ようは根性しか武器がないわけだ」稲見はみなみを見つめてから、二人を見て言う。「さて。一体何人が、挑戦できるかな?」
「まずできないだろうな……」夕は呟いた。
「下から、登ってるケツを見上げるのはロマンだけどな……」磯野は顔をしかめて真剣に言った。
「あんたは……」夕は嫌そうに磯野を一瞥する。
「乃木坂のデビュー発表みたいな、AKBの会場での挨拶の場で、整列した瞬間に、センターとして発言する生駒ちゃんのお尻を、ぽんぽん、と叩いたのもみなみちゃんだった」稲見は思い出しながら言った。
「がんばれ、みたいなな?」磯野はみなみにはにかむ。「みなみちゃんってポジティブなんだよな?」
「えー、わっかんない。でもどー、だろう」みなみは可愛らしく考える。「暗くは、ないかな」
「黒とか、骸骨とかが好きな時期あったよね」夕は楽しそうに思い出していく。「それまでピンクが好きって言ってたのに」
「あーでも結局、一周回って、ピンク大好きになったから」みなみは天使のように微笑んだ。
「アンダーも経験してるんだよな?」磯野はしみじみと呟いた。
「うん」みなみは頷いて、ミナミを一口吞んだ。
「アンダーでさ、初恋の人を今でも、って名曲のセンターやっちゃうんだから、やっぱみなみちゃんだよな」夕はみなみに優しく微笑んだ。「あのMV、何度も観たよ」
「あー、ありがとう」みなみは小さく笑った。
 星野みなみの笑顔と共に、フロアに流れている楽曲がチャーリーの『バスケット・ケース』(ft.MCD)に変わった。