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ポケットいっぱいの可愛い。

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「乃木坂配信中で、絢音さんの初恋のエピソード動画を拝見させて頂きました」駅前はにこり、と絢音に微笑んだ。「更に、絢音さんを好きになっちゃいました」
「えー。ありがとう」絢音は微笑んだ。
「して、……私達の話とは、なんの事でしょうか?」駅前は真夏に言う。
「あ、そうそう」真夏は駅前の声に気付き、メンバーとしていた雑談を中断して、こちらの話題にのった。「あのね、夕君から聞いたんだけど……。なんか、ファン同盟に、新メンバーが入るんでしょう?」
「え……」駅前は耳を疑った。
「え違った?」真夏は逆に驚いた顔をする。「え聞いたよ、だって。男とか女とか、幾つぐらいの人とか、全然知らないんだけど……。入るかも、って」
「そうなんですか」駅前は眼を白黒させる。「秘密を共有できる、ちゃんとした人じゃないと、困りますけどね。そうですか……。私が、卒業しなくちゃならないのかしら……」
「そんな事ないでしょう」真夏は苦笑する。「ファンにはだって、年齢とか関係ないでしょう?」
「そうだと助かるのですが……」駅前は落ち込む。「そもそも、なんで私が貴重なファン同盟に選ばれたのかも、わかりませんし……。ええ、でも、悔いはありません」
「木葉ちゃん」真夏は苦笑する。
「どったの?」日奈子は会話に参加した。「なに、暗い顔してんじゃん、木葉ちゃん」
「いやね、ファン同盟に、新メンバーが来るかもって話、あったじゃん?」真夏は日奈子に説明する。
「あーあー、はいはい」日奈子は笑みを浮かべたままで納得した。
「それでね、新メンバーが来るって事は、木葉ちゃんが、卒業しなきゃいけないのかな、って……。自分を責めてるの」真夏は日奈子と駅前を交互に見つめて言った。
「どしたぁ?」怜奈は心配そうに、駅前を見つめる。「なんかあったの?」
「いやあね、あのさ、ほら、ここに夕君達の他に、新メンバーが加わるかもって話あったでしょ?」
 説明途中で、鈴木絢音と高山一実と新内眞衣も会話に参加してきたので、秋元真夏はもう一度、改めて事情を説明した。
「ていうか、新メンバーって、ほんとに来るの?」眞衣は怪しんだ顔つきで真夏に言った。
「ういやあ、私はわかんない」真夏は慌てて首を横に振る。
「木葉ちゃんが卒業ってのは、ないでしょう」日奈子は持ち前の明るさで言った。「だって卒業したってしょうがないじゃない?」
「うん」絢音は共感した。
「大丈夫だよ」怜奈は笑みを浮かべて、ファイティング・ポーズで駅前を励ました。
「夕君がそんな事言うと思う?」眞衣は駅前に言う。「新メンバーだって怪しいし」
「すさかまぼこって言える?」一実は突然に発言した。「すさかまぼこ……」
「突然なにぃ?」真夏は笑う。「しかも、何て言った?」
「すさかまぼこ」一実はもう一度発音した。
「あーたぶん、ささかまぼこ」眞衣は微笑みながら言った。「でしょ?」
「うん」一実はまんべんなく笑った。
「ささかまぼこ」真夏はそう言ってから、笑う。「てか、ほんとに突然なに?」
「いやー空気変えようかと思って」一実は苦笑した。「木葉ちゃん、言える?」
「ささかまぼこ……」駅前は、じわりと微笑んだ。「ありがとうございます、かずみんさん、真夏さん皆さん。元気、出ました」
「おー、やりますね」日奈子は一実に無邪気な笑みを見せた。「良かった良かった。めでたしめでたし」
「ささ、みんな呑みなおそ」真夏はテーブルからグラスを取った。「かんぱーい」

       7

 乃木坂46星野みなみ卒業セレモニーがPM十八時には開催されるだろう。時は二千二十二年二月十二日、土曜日。
 映画館ホールのような造りになっている地下六階の〈映写室〉では、乃木坂46ファン同盟の風秋夕と、稲見瓶、磯野波平、姫野あたる、駅前木葉の五人が、懐かしの星野みなみグッズに身を包んでその時を待ちかねていた。
 それぞれの両手には、星野みなみ応援カラーの白と白のサイリュウムが握られていた。

「みんな今までありがとう、て……。みなみちゃんが」夕は携帯電話をポケットにしまいながら、小さく微笑んだ。
「こっちこそ、ありがとうが数えきれない」稲見は俯く。
「なーに始まる前っからじめじめしてやがんだてめえら!」磯野は強がって笑った。「みなみちゃんの晴れ舞台だぜえ、一発大声で見送ってやろうじゃねえかよ、なあ!」
「ううぅ~始まる~、始まってしまうでござる~」あたるは涙を堪えながら顔をしかめて言った。「始まってしまったら、何もかもが終わってしまうでござるよ~……」
「みなみさん、私はっ、んもう瞬きすらしません!」駅前は眼玉をひんむいて言った。
「おいおい……無理すんな、怖ええよ」磯野は怯えた。
「時よぉ、止まるでござるぅ~!」あたるは強く眼を瞑って叫んだ。
「止まらない」夕は巨大なスクリーンを見つめながら言う。「だから、見つめるんだ」
「誰もいなくなる、その瞬間までね」稲見はあたるを一瞥して、さり気なく笑みを浮かべた。
「みなみちゃーーーん!」あたるは叫んだ。
「みなみちゃーーん!」駅前も叫ぶ。
「みなみちゃーーーーん!」夕も叫んだ。
「みなみちゃーーん!」稲見も叫んだ。
「みんなみちゃーーーーん!」磯野も叫んだ。

 その巨大スクリーンには、フリーズした星野みなみの美しい姿が映されている。乃木坂46の尽きぬ音楽が流されていた。

「こんなにも、早くみなみちゃんの顔が見たい」稲見は言った。
「ああ、最後のみなみちゃんだからな。存分に見ちゃおうぜ」夕は微笑んで言った。
「本当なら、ステージに乗り込んで行って抱きしめてえ」磯野は真剣に呟いた。
「ステージに乗り込んでって……、プロレスラーですか」夕は嫌そうに言った。
「小生のポケットは、涙でいっぱいでござる」あたるは雑に涙をふいた。
「生生星(いくいほし)も、とうとう最後の一人……。その生生星も、今日で……」駅前は、声を殺して泣き始める。
「意識しないできたけどな。意識するしかないわな、今日だけは」夕は呟いた。
「笑顔が、見たいな」稲見は言った。
「みなみちゃんったら笑顔だからな!」磯野は泣いていた。
「小生、この日を、忘れぬでござる!」あたるは眼を閉じ、己の魂に誓った。
「私も、忘れないわっ」駅前も振り絞るようにして声を出した。
「ライブはオーディエンスあってのライブだ、配信だからって気を抜くなよな」夕は口元を引き上げて言った。「盛り上がるぞ、みんな」

 影ナレは和田まあや、筒井あやめ、遠藤さくらであった。拍手が沸き上がる。三人は『みなみの事が~、大好き~!』と声を揃えて影ナレを終えた。
 しばらくして、会場が黒一色に染まる――。拍手が上がった。
 VTRが流れ始めた。同時にオーバーチャーがかかる。歴代の星野みなみの映像……。
 『ぐるぐるカーテン』がステージの幕を上げる。センターは星野みなみ。これを会場中に広がった乃木坂46全体で歌った。一期生達は紫のチェック柄の衣装。後の乃木坂46は灰色の衣装であった。
 秋元真夏と星野みなみがトークを開始したところで間も無く、耐え切れずに、秋元真夏は泣き出してしまうハプニングテイストから始まった。
卒業する実感はあまりないと答える星野みなみは、不思議そうに会場を見つめていた。