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「そういうコネは夕が沢山持ってるからね。特に興味あるものには眼がない。彼はそういう人だ。長年友人をやってると、夕の独占欲の強さがよくわかる」
「あんたもでしょ」飛鳥は小さく笑みを浮かべた。
「見抜くね」稲見も小さな笑みを浮かべた。
「コネとかあるんなら、もう五期生たち見た？」まあやは上目遣いで稲見を見上げながら言った。
「そういう事はしない。もうしばらく付き合えば、夕の事がもっとよくわかるようになるよ」
「ちゃ、まあやはイナッチに言ってんのぉ」まあやは稲見に言う。
「え」稲見は少しだけ考えてから、答える。「見てないよ、まだ。一般公開が楽しみだ。ああ、ひなちま、写真集発売決定、おめでとうございます」
「あー」日奈は瞳を輝かせて稲見に微笑んだ。「そうなの、ありがと～」
「こちらこそ。ありがとうだね」
「イナッチも買うの、写真集とか」飛鳥は少しだけにやけて、稲見をまじまじと見上げた。
「なに、それどういう意味？」みなみは無邪気に笑う。
「いや、どんな顔して見るのかな～と思って」飛鳥はにやけたままで言った。
「ポーカーフェイスじゃない？」日奈はそう言って飛鳥を一瞥してから、稲見を見つめた。
「まぬけな顔だね、きっと」稲見は短く苦笑する。「見せられないな、そんな顔は」
「イナッチってさ、え、それっていっつもかっこつけてるの？」まあやは不思議そうに稲見を見上げて言った。身長差の為、自然となる構図である。
「かっこつける、の定義がよくわからない」稲見は無表情で答えた。
「あ無表情になった！」まあやは可笑しそうに稲見を指差して笑った。「うけんだけど」
「なんか言い返しなよ」飛鳥は苦笑しながら稲見に言った。
「おこだぞ」稲見は無表情で、小さく右手を持ち上げて言った。
「え。イナッチがギャグ、言ったぁ……」みなみは笑みを浮かべながら驚愕する。
　樋口日奈と和田まあやは声を出して笑っている。
「顔が怖い、やり直し」飛鳥は稲見に言う。「はい」
「いや、怒ってるから、いいんじゃないかな」稲見は返答する。「おこ、て、そういう意味の略語でしょ？」
「あーそっか」飛鳥は納得した。
「ギャグ、言えるんだねぇ。イナッチって……」みなみはまだ驚いた顔で稲見を見つめていた。
「ギャグなの？」稲見はうっすらと苦笑した。「よくわかってないけど、ギャグなら、このぐらいは言える」
「えじゃ顔ギャグは？」まあやは笑いから解放されて開口一番に稲見に言った。「でき、ない？」
「しない、だね」
　パーティー会場の奥に設置されている最も大型なテーブルの周囲に、与田祐希と佐藤楓と向井葉月と山下美月と梅澤美波と中村麗乃と阪口珠美と吉田綾乃クリスティーと久保史緒里が乃木坂46四期生同士で集まっていたので、風秋夕はご機嫌でその輪に参加する事にした。
「ピーチ・ジョンのルームウェアの初代ミューズに就任、だってね。さすが美月ちゃん。おめでとう」夕は美月に微笑んで言った。
「あーありがと」美月は小さく笑みを浮かべる。
「いっぱい宣伝しとくね」夕はにっこりと微笑んだ。
「ありがと」美月は屈託なく微笑んだ。「お願いしま～す」
「おー夕君じゃーん」美波は夕に気が付いて、笑みを浮かべた。「クリスマス以来かなあ？」
「そだね」夕は美波に微笑み返す。「来れないOGのメンバーも多かったけど、楽しいクリスマスだった」
「ねね。もう五期生と会ったと？」祐希は上目遣いで夕を見上げた。
「昨日一緒に映画観たよ」
「うっそ！」祐希は驚く。周囲のメンバーも驚いていた。
「嘘ぴょん」夕ははにかんだ。「んなわけないでしょうに。新メンバーだよ？ まだまだ手ぇ出しませんよ」
「それって私達には手ぇ出してるって事？」楓は笑みを浮かべて夕に言った。
「愛情は伝わる？」夕は言う。「それなら、手ぇ出してる事にしといてもいいかな。愛が重要なんだ、そこは。てか与田ちゃん、私生活では眼鏡してんだね」
「そうだよ」祐希は笑みを浮かべる。「あ、ここに来る時って仕事終わりとか、それからの時間が多いから、基本コンタクトだからね」
「与田ちゃん、最強説あるな」夕はとろけるように、照れ笑いを浮かべた。「可愛い」
「こっちは？」葉月は夕に言った。葉月も眼鏡をかけている。
「可愛い。てへ」夕は葉月にウィンクする。「四期がこんなに可愛すぎるのに、五期とか。乃木坂って世界を支配する気かな」
「口だけは上手いんだから」史緒里は夕を一瞥するなり、そう言って小さく溜息をついた。「ダメよう？ 本気でナンパしちゃ。純粋な子が多いんだから、乃木坂は」
「本気とか、どうなんだろうね。好きなのは本気だけど」夕は史緒里を見つめる。「しーちゃん口説くときには、本気ださせていただくよ」
「だーから、口説くな、ての！」史緒里は苦笑する。
「夕君、なんかいい匂いする」珠美は微笑んで言った。「なに、香水、かなぁ？」
「ティファニーちゃんとどっちがいい匂い？」夕は珠美に微笑む。
「それはティファニー」珠美は微笑んで答えた。
「なに、ティファニーってブランドの？」綾乃は皆の顔を見る。「あー、珠美んちのワンちゃんかー」
「そうだよ」珠美は綾乃を一瞥する。
「れのちゃんカットパインブーム、もう過ぎた？」夕は麗乃に言った。
「もうとっく」麗乃は苦笑する。「いつの話してんの」
「なにカットパインて」美月は夢中になっていた食事を中断させて、麗乃と夕を交互に見た。
「あの、流行り？ みたいなやつ」麗乃は美月に答えた。「もう結構、前の話よ」
「ゆうきは馬刺し、だな。マイブームは」祐希はロマンティックに微笑む。
「ずっとブームじゃん」美波は突っ込んだ。「少し飽きろよ」
「だって、飽きないんだもん」祐希はころころと笑う。
「私も飽きないものっていっぱいあるな～」美月は誰にでもなく言った。「あれじゃない？ 食べ物って、飽きなくない？ 飽きる？」
「飽きなーい」葉月ははにかんだ。
　空間の真ん中にあたる中央のテーブルにて、北野日奈子と鈴木絢音と山崎怜奈と新内眞衣と、秋元真夏と高山一実が並んで談笑していたので、駅前木葉はシャンパン・グラスを手に取り、バンジージャンプに挑戦するようなただならぬ強い決意で、その場へとゆっくりと移動した。
「奇遇ですね、皆さん。ご機嫌いかがですか？」駅前は不器用に微笑んだ。
「あー木葉ちゃん。ねね、おいでよ」真夏は屈託のない笑顔で木葉を手招いた。「今木葉ちゃん達の話してたの。ちょうど良かった」
「はい……、どんな話でしょう？」駅前は歩み寄りながら、高山一実と新内眞衣の笑顔を意識した。「あ。かずみんさん、まいちゅんさん、お誕生日、おめでとうございます」
「あーありがとー木葉ちゃーん」一実は微笑んだ。
「サンキュー」眞衣も新しく笑みを浮かべた。
「あれだよね、木葉ちゃんも誕生日だよね？ じゃない？」真夏はきょろきょろとして、駅前を見つめる。「だよねえ？」
「はい」駅前は申し訳なさそうに、頷いた。
　その場に心地良い「ハッピーバースデイ」が飛び交った。
「絢音さん」駅前は絢音を見つめた。
「はい！」絢音は驚いて眼を見開いた。「はい、なんでしょう」