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ポケットいっぱいの可愛い。

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 続いて、一期生の樋口日奈が、星野みなみに想いを伝える。それは、樋口日奈達がまだアンダーメンバーだった初期の頃、乃木坂だとスタッフにわかってもらえなかった時、『この子達も乃木坂なんです』と言ってくれた星野みなみへの感謝の気持ち。本当にあ疲れ様、ゆっくり休んでねという言葉。
 秋元真夏も、休業から復帰した時に一番に声をかけてくれたのがみなみであったと、涙ながらに語った。星野みなみも、みんなに、ありがとう――と。

『それでは聴いて下さい。あらかじめ語られるロマンス!』

 乃木坂46全員で歌う『あらかじめ語られるロマンス』が始まった。砕け散るように、姫野あたるは座席に崩れ落ち、泣き声を上げる……。
 なんの為に、自分は生まれてきたのだろうと、幾度思ったことか……。それが、どんなに寂しく、辛い思いだったことか……。
 僕は、今でも忘れない。天使のような笑顔で、僕を救いあげてくれたこと。
 僕が生まれた意味があるのだとしたら、それは乃木坂を好きになる為だ。
 星野みなみを、愛する為だ。
 僕の念願は叶ったんだ。こんなに、こんなに幸せなことって他にない。
 みなみちゃんが選抜発表で傷ついた泣き顔を見せた時、僕はどうしていいかもわからずに一緒に泣いた。設楽さんは父親のようにしっかりとした意見を与えてくれていたね。でも僕はそんなに凄い人ではないから。君が泣いていることが、ただただ、悔しくて、一緒に泣いていた。
 あれから年月も経ったけど、僕は今でも泣く日がある。誰にもバレないように、こっそりと、声を殺して、感情を消して泣く。
 そんな時、いつもみなみちゃん達の笑顔が、孤独な僕の心を救い上げてくれた。
 可愛いの力って凄いんだよ。
 好きっていう力は、とても偉大なんだ。
 みなみちゃん、大好きです。
 今も。これからも。
 僕は乃木坂を応援していくだろう。いつまでも、愛しくて仕方のない君の姿かたちを忘れないままで。
 みなみちゃん。それじゃあ、またね……。
「びなびぢゃんびなびぢゃん、びなびぢゃーーーーん!」
 姫野あたるは心の奥底からの気持ちを、その愛しい名前を叫びあげる事で、また記憶していく……。星野みなみの笑顔に、永遠を誓った大きな笑顔で。

 声を揃えて、ありがとうございました、と挨拶する乃木坂46。
 星野みなみは言う。沢山パワーを与えてくれた人達に出会えて、本当に良かったです。十年間、本当に、ありがとうございました……。
 星野みなみは、最後に、本日は本当に、ありがとうございましたと、涙で声を詰まらせた。
 『十年間、可愛いをありがとう』というプラカードをかがげるオーディエンスに対し、微笑みを浮かべる星野みなみ……。
 本当に、ありがとう――と、星野みなみは輝くような可愛い笑顔を残し、ステージから、消えて無くなった。

       8

 星野みなみは、〈リリィ・アース〉の地下二階の北側の壁面に三つ存在する巨大な扉の最も右側の巨大扉から、エントランスフロアへと姿を現した。
 その手には大きな紙袋が持たれている。
 風秋夕は、東側のラウンジから、星野みなみの姿に気が付いて、じっと眺めた。
 ソファ・スペースにいる稲見瓶も、磯野波平も、姫野あたるも、駅前木葉も、星野みなみの姿を静かに眺めていた。
 星野みなみは、そのまま何も喋らずに、視線もよこさずに、エントランスのフロアを行こうとする。
「みーなみちゃん」
 その風秋夕の声に、星野みなみは、じわり、と笑顔を浮かべて振り返った。
「やっぱり、何も言わないで行くのは無理か」
 風秋夕は笑顔でいる。
 星野みなみは、ぺこり、と会釈をした。
「待った待った!」
 磯野波平はソファを飛び越えて、星野みなみのもとへと駆けていく。それに続いて、姫野あたるも、息を弾ませて、星野みなみのもとへと走った。
 稲見瓶も、ソファ・スペースから移動を始める。
 星野みなみは、駆けつけた磯野波平に、屈託のない天使のような笑みを浮かべていた。
 風秋夕も、駅前木葉も、エントランスフロアの方へと歩き始める。
「みなみちゃん……、そんなに荷物持って、…どこ行くんだよ」磯野は弱い笑みを浮かべて、みなみに言った。
 星野みなみは、笑顔のままで、言葉を選んでいる様子であった。
「みなみちゃん殿!」
 駆けつけた姫野あたるは、泣き出しそうな笑顔で、星野みなみに言った。
「小生……、人生で、みなみちゃんの事を、絶対に忘れないでござる!」
「んふ。ありがとー」
「ばっか。これからもダチだろうが」
「そうでござるな!」
 稲見瓶は、星野みなみの眼の前で、脚を止めた。

スペシャルサンクス・乃木坂46合同会社

「みなみちゃん、手伝おうか?」稲見は笑顔で言う。「こんな時間に?」
「明日でも良かったんだけど……」みなみは、はにかむ。「早いほが、いいかな、て思って……」
「手伝うでござる」あたるは手を差し出す。
「ううん」
 姫野あたるは、差し出した手を、ゆっくりと下ろした。

スペシャルサンクス・秋元康先生

「大丈夫。ありがと」
 風秋夕と、駅前木葉が、星野みなみのもとへとたどり着いた。
 風秋夕は微笑んで言う。
「みなみちゃん。これから、病みつき間違いなしの、極上の食事と、最高級のアルコールで乾杯、なんてどうですか?」
 少し間を開けて。
「はい、いりません」みなみはにっこりと微笑んだ。
「こんなやりとりが、素敵すぎるので、……また、誘ってもいいですか?」夕は笑みを浮かべたままで、みなみを見つめた。
「……ダメです」
「みなみちゅわんキッスしちゃうずお~~!」磯野はみなみへと飛び込もうとする。
 す――と、風秋夕は片手で磯野波平の動きを止めた。
 星野みなみは、風秋夕の視線に、風秋夕を見つめ返す。
「みなみちゃんには、ちょっかい出させないぞ。ちょっかい出せない存在なんだ、みなみちゃんは」
 そう言って微笑んだ風秋夕の頬に、涙が落ちた。

 スペシャルサンクス・今野義雄氏

「くっ、……ちぇ。ちょっかい、出せねえのかよ」
 磯野波平は、片腕で顔を隠した。
「寂しいな……、そりゃあ」
 最初、二人のやり取りを呆然と見つめて微笑んでいた星野みなみは、その顔を、徐々に泣き顔に変えていく……。
「うおおおおぉーー!」
 姫野あたるは、天井に向かって叫んだ。そして、ゆっくりと顔を下げ、微笑んだ。
「幸せになるで、ござるよ。みなみちゃん」
 稲見瓶の眼から涙が落ちる。

スペシャルサンクス・乃木坂46
・乃木坂工事中
・乃木坂46星野みなみ卒業セレモニー
・テレビ東京
・乃木坂配信中
・ミュージックステーション
・テレビ朝日

「じゃあね………。バイバイ」
 星野みなみはそう言い残して、広いフロアを急ぎ脚で走って行く。
 駅前木葉は叫ぶ。
「あなたの幸せを! いつまでも、祈っていますから!」
「さよなら、みなみちゃん」
 風秋夕は、彼女を眼で追わずにそう呟き、涙を増やしていく……。
「じゃあな、みーーなみちゃーん!」
 磯野波平は、星野みなみの背中を、見えなくなるまで、眼で追っていた。

脚本・執筆・原作・タンポポ