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手袋を買いに行ったら大好きな人ができました2

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 昨日、お店で夕ご飯をご馳走になっているうちに降ってきた雨は、とうとう本格的な冬を連れてきたようでした。今朝の空気は昨日までよりぐんと冷たくて、炭治郎たちが吐く息も真っ白です。
 真冬が来たなら年が替わる日も近づきます。このごろ『災い』が出たという話をあまり聞きませんが、『災い』の首魁はキメツの森に襲いかかる準備中なのかもしれません。それはとても恐ろしいことでした。
 あんな怖い話を聞いたあとで雨のなかを帰るなんてと善逸が怯えるのを見て、洋服屋さんは、昨日もみんなに泊っていけと言ってくれました。昨夜も洋服屋さんに抱っこされて眠った炭治郎は元気いっぱいですが、やっぱり少し怖い気持ちは胸のなかにありました。

 今日のお遣い先は、風柱様のお住まいです。お社は森を抜けた先の谷間にあります。今までのお遣い先である柱様のお住まいよりも、風柱様のお住まいはもっとずっと遠い場所でした。
 風柱様は森の外側にお社をかまえ、外敵からの攻撃を先陣切って迎え撃っているのだそうです。
 柱様たちはみんな『災い』を容赦なく斬り祓いますが、風柱様はとくに『災い』には厳しく、その戦いぶりは守られた動物さえも怯えてしまうことが多いのだと、噂好きな善逸が教えてくれました。
 今日のお遣いは夜までに帰るのは無理ですから、洋服屋さんは、二日分のお弁当をみんなに用意してくれました。新鮮なお水がたっぷりと入った水筒も持たせてくれて、用意は万端です。これなら伊之助や善逸も、お腹を空かせずにすむでしょう。
 出発するとき、洋服屋さんはみんなに、重々言い聞かせました。

 まだ早い時間だと思っても、無理に帰ろうとせず、風柱様のお住まいで夜を過ごさせてもらうこと。暗くなったら決して一人にはならないこと。そして、万が一『災い』に出くわしたら、すぐに誰でもいいから柱の名を呼ぶこと。

 炭治郎たちは何度も復唱させられて、短気な伊之助などは、すっかり不機嫌になってしまったぐらいでした。
 やはりお遣いはやめさせたほうがいいだろうか。洋服屋さんがそう思っていることは炭治郎にもわかりましたが、炭治郎は洋服屋さんのお手伝いをやめるつもりはありませんでした。
 洋服屋さんのお手伝いをして、もっと仲良くなりたいのも確かなのですが、『災い』の首魁の話を聞いて、炭治郎は考えたのです。
 炭治郎はただの子狐で、柱様のように戦うことなんてできませんし、洋服屋さんみたいに不思議なことだってできやしません。
 けれど、柱様たちとお逢いしていくうちに、自分にもなにかできることが見つかるかもしれない。もしも自分にできることがあったなら、禰豆子たちを守るためにも精一杯やろう。炭治郎はそう思ったのです。
 なので、今日も炭治郎は張り切って走りました。新しいマントを羽織ってご機嫌な禰豆子も、今日は遅れることなくついてきています。善逸や伊之助も、いろいろと考えることがあったのかもしれません。いつもだったら怯えて泣き言ばかり言う善逸も、文句を言わずにお手伝いに参加していました。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 一所懸命走って、お弁当を食べてまた走って、風柱様のお住まいである谷間の上に着いたときには、もうお日様は山の端にかかりかけていました。
 急いで崖を下りなければ、あっという間に暗くなってしまうでしょう。冬の日は落ちるのがとても早いのです。
 慌てて炭治郎たちは谷へ下りる道を探しました。暗くなれば森の外のこと、『災い』が出てくる恐れは十分にあります。
「どうしよおぉぉ炭治郎ぉぉ! 谷に下りる道なんて全然ないじゃんっ! このままじゃ夜になっちゃうよぉぉ!!」
「もうこのまま崖を下ってこうぜ! これぐらい楽勝だぜ!」
 善逸は泣きべそをかいているし、伊之助は無謀なことを言い出すしで、炭治郎と禰豆子も困ってしまって顔を見合わせました。
 安全な道はどうしても見つかりません。もっと遠くまで行けばあるかもしれませんが、そこまで行く前に夜になってしまうでしょう。
 どうにも困ってしまった炭治郎たちは、とにかく少し落ち着こうと話し合うことにしました。
「道はないけど、崖が緩やかな場所はあっただろ? あそこからなら下りられないかな?」
「でもお兄ちゃん、綱かなにかあれば体を支えられるけど、なにもないよ?」
「いくら緩やかって言っても、やっぱり崖なんだぜっ!? 落ちたら大怪我するって!」
「へんっ、これぐらいの崖で怪我なんかするかよっ!」
 伊之助はともかく、禰豆子や善逸が言うことはもっともです。けれど、ほかにいい案も見つかりません。炭治郎たちは恐る恐る崖を覗き込みました。
「ほら、ちょっとずつだけど足場になりそうな出っ張りがあるだろ。あれを伝っていけば、谷に下りられると思うんだ」
「下りるなら暗くなる前だな。足場が見えなくなったら、俺様はともかく弱みそな紋逸や子分その三は、足を踏み外して真っ逆さまに落っこちまうからな」
「いのっ、伊之助ぇぇっお前なぁぁっ! どうしてそういう不吉なこと言うんだよぉぉっ!! お前言霊って知ってる!? 知ってるかっ!? 知らねぇだろこの野郎!! 不吉なこと言って本当にそうなっちゃったらどうしてくれんだよっ、馬鹿ぁぁぁっっ!!」
 伊之助のマフラーを掴んでブンブンと揺する善逸は、もはや本泣きです。もともと臆病なものだから、『災い』も怖ければ崖も怖いしで、とても落ち着いていられないようでした。
「善逸さん、落ち着いて。大丈夫よ。ゆっくりいけば落ちたりしないから。私も頑張るから、善逸さんも頑張って!」
 禰豆子に言われて、目を回した伊之助をようやく放したものの、善逸はまだ泣きべそをかいています。それでも、禰豆子ちゃんが落ちそうになったら俺が助けるからねと、泣きながらも言うので、禰豆子は苦笑しつつもうれしそうでした。

「これしか谷間に下りる方法はなさそうだし、行こう!」

 炭治郎の言葉に、勇気を振り絞って、みんなはゆっくりと崖を下り始めました。
 伊之助を先頭に、炭治郎、善逸、禰豆子と続きます。少しでも明るいうちにと気がはやりますが、焦って足を踏み外したら大変です。よいしょ、よいしょと、炭治郎たちはゆっくり崖を下りていきました。
 どんどん辺りは暗くなっていきます。あまり下を見ると目を回しそうで、足場だけを探しながら、炭治郎たちは少しずつ谷へと向かいます。いったいどれくらい下りたでしょう。お日様が沈み切る前に谷に着けるのでしょうか。不安になり始めたそのとき。
「あっ! もうすぐ谷に着くぜっ!」
 大きな声でうれしそうに言った伊之助の言葉ににつられて、炭治郎たちは、思わず谷を見下ろしました。

「あ……っ」

 振り向いた拍子に、禰豆子が右足をかけていた出っ張りが、ガラリと音を立てて崩れました。
「禰豆子ちゃんっ!」
「禰豆子っ!!」
 足場を失って後ろに倒れかけた禰豆子の手が、崖から離れ、体が空へと投げ出されます。マントが花のように開いてはためくのが、なぜだかゆっくりとして見えました。
 呆然としたのは一瞬で、炭治郎は善逸と一緒に落ちていく禰豆子へと必死に手を伸ばしましたが、とても届きません。