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手袋を買いに行ったら大好きな人ができました 3

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「いずれは姉上の跡を継ぐことを定められた眷属だったというのに、俺は姉上や錆兎たちが『災い』と戦っているとき、なにもできなかった。なにも知らず、一人安全な場所にいたんだ。俺に水柱を継ぐ資格などない」
「そんなことないですっ! 義勇さんは立派な水柱様です!!」
 必死に言うと、義勇は小さく笑ったようでした。興奮するのは体によくないとベッドに横にならされて、炭治郎はムゥとほっぺたをふくらませました。それに少し苦笑して、寝かしつけるように炭治郎の胸をぽんぽんとやさしく叩いてくれながら、義勇は静かに話し続けます。
「お前に初めて出逢ったのは、柱を名乗ることにためらいしかなかったころだ。お前の家族が襲われるのにも間に合わず、罪悪感や自己嫌悪ばかりに苛まれていたが、お前は……お前と禰豆子は、何度も何度も、俺の社がある泉に感謝と祈りを捧げに来てくれた」
 胸を叩く手を止め、義勇は炭治郎のおでこに自分のおでこをコツリと当てると、そっと囁きました。
「ありがとう……お前たちのおかげで、俺は柱になれた。お前たちの感謝と祈りが、俺を柱にしてくれた」
「義勇さん……?」
「祈りが柱の力になる。それを承知していながら、姿を現すことを拒んでいた俺には、祈りや感謝も少なかった。だが、お前たちは姿を覚えていないことなど関係なく、祈りと感謝を捧げてくれただろう? それが、俺の力になった。なによりも強く、揺るぎない、力に……」
「それじゃ、俺、ちゃんと水柱様のお役に立ててたんですね」
 うれしくてニコニコと炭治郎が笑うと、義勇も小さく笑い返してくれたのですが、すぐに困ったように視線を逸らせてしまいました。
「その、お前が天狐の血筋なのは、初めて見たときからわかっていた。だから……もし、お前が俺とともにいたいと望んでくれることがあれば、日の神として、水の神である俺の……伴侶、として、俺とともに生きてくれるかと……」
「……伴侶」
「いやっ、気にするな。忘れていい。お前はまだ幼い。いずれ日の神としてお館様の一柱を担うようになれば、眷属を得てそこから神嫁を迎え入れることもあるだろうし、胡蝶の眷属である栗花落のような神の親族から、伴侶を迎えることにもなるだろう。今から、俺の……伴侶に、などと、決める必要はない」
「なりますっ、俺! 義勇さんの伴侶になりたいですっ」
 ガバッと起き上がって言った炭治郎に、義勇の目が丸く見開かれました。
「炭治郎……俺の話を聞いていたのか? 幼いお前が今から伴侶などと決める必要はないと……」
「だってっ、俺が大人になって日柱になるまでに、義勇さんだって神嫁様を迎えちゃうかもしれないんですよね? もしかしたら蟲柱様とかとご結婚して、伴侶になさるかもしれないんですよね? 嫌です、俺……義勇さんと一緒にいていいなら、俺が義勇さんの伴侶になりたいですっ」
 ぎゅっと義勇の襟元を握りしめ、きれいな顔を見上げて一所懸命言った炭治郎に、義勇はなぜだか天を仰ぎました。ハァッと溜息までついています。
「……神との約束は、違(たが)えられん。今ここで約束してしまったら、これから先お前に恋しい相手ができても、伴侶となることは許されないんだぞ?」
「いいですよ。だって俺が一番大好きなのは、これから先もずっと義勇さんだけですからっ! それに、真名って伴侶やご家族にしか本当は知られちゃいけないものなんでしょう? 蟲柱様が教えてくれました! 俺はもう知ってますから、義勇さんの伴侶になってもいいですよねっ」
 ニコニコと笑って言う炭治郎を、ようやく見つめ返してくれた義勇が、小さな声で囁きました。真名を教えてくれたときと同じくらい、その声は小さかったのですけれど、義勇がくれた言葉は、炭治郎にとって義勇の名前と同じくらい大切な、宝物のような言葉になりました。

「……お前が大きくなって、神として独り立ちしたら……どうか俺の伴侶になってくれ、炭治郎」

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 大きな大きなキメツの森の外れに、その小さな洋服屋さんはあります。
 それは泉の水が凍りだす冬の間だけ開かれる、不思議なお店でした。森の動物たちが寒い冬を凍えて過ごさぬようにとお店を開いた洋服屋さんは、とっても無口で口下手なのですけれども、やさしい人です。売っているマフラーや手袋もとにかく温かくって、動物たちには評判のお店でした。
 店主である洋服屋さんは、長い黒髪を半半柄なベストの背に揺らしながらお仕事机に向かっては、いろんな物を作っています。森の動物たちはみんな、洋服屋さんが作る暖かいセーターやらマントやらを身に着けて、寒い冬を乗り切るのです。
 お店のドアを開くと、ふさふさしたしっぽ自慢な狐の店員さんが、いらっしゃいませと笑ってくれます。とっても明るいお日様みたいな笑顔の店員さんです。
 その店員さんは、ご伴侶様と呼ばれることもありました。
 店員さんがまだ子供だった何年か前までは、柱さま見習いのご眷属様なんて呼ばれ方もしていました。けれども、店員さんも大人になったので、このたび正式に襲名の儀とご婚礼の儀が行われて、店員さんは日柱様だとか、水柱様のご伴侶様と呼ばれるようになったのです。
 お店には洋服屋さんのお仕事机のほかにもテーブルセットが置かれていて、洋服屋さんと店員さんは、お客様がいないときにはそこでお茶にすることも多いそうです。
 丸いテーブルには椅子が五つ。昔は四つしかなかった椅子に、森の護り神であるお館様から店員さんに贈られた椅子が一つ加えられて、洋服屋さんと店員さん、ご家族やお友達が輪になって座り、そこで一緒にご飯を食べたりするという話です。
 もちろん、お客様が座ってもかまわないのです。洋服屋さんも店員さんも、叱ったりはしません。あなたがお店を訪れて、洋服屋さんが注文の品を作り終えるのを待つあいだ、店員さんはあなたをテーブルに招いて、温かくて甘いホットミルクをご馳走してくれるでしょう。
 だからもしもあなたがしもやけに悩むようなことがあったなら、ぜひ、キメツの森の外れにある小さな洋服屋さんにお出でなさい。お日様みたいな笑顔に出迎えられて、ぬくぬくとした手袋を買ったなら、きっとその冬は幸せに過ごせるはずです。

 さぁ、キメツの森の外れの小さな洋服屋さんに、あなたもどうぞ、いらっしゃい。