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【APH】無題ドキュメントⅦ

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「プロイセン、いいでしょうか?」


子どもを伴い庭に出てきたオーストリアにプロイセンは部屋へ戻るように、促した。既に夕暮れが迫り、あらゆるものを斜陽は赤く照らしていき、その色と反するように空気は冷たく凍えていく。
「ルートヴィッヒ、悪いがハンガリーの相手を頼む」
「解った。…ハンガリー、こちらへ」
目を合わせもせずに、プロイセンと子どもは擦れ違う。それでも一瞬だけ、子どもの髪を梳くようにプロイセンの指先が触れ、離れていく。金色が小さく揺れて、階段を上がって行くプロイセンの背中を子どもは見送る。それをハンガリーは目に留めた。
「ねぇ、ルートヴィッヒ」
「何だ?ハンガリー」
「プロイセンが好き?」
唐突な質問に子どもは瞬きをひとつし、ハンガリーを見上げた。

「…解らない」

子どもの答えには、言葉を躊躇うような暫しの間があった。

「…外は寒かっただろう。温かいお茶を淹れて来る」

子どもは視線を伏せ、廊下の奥へと消える。それをハンガリーは見つめる。
(…あの乱暴者のプロイセンが信じられないわ)
見てしまった。そっと壊れ物を扱うかのように節くれた指先が子どもの髪を梳き、それを愛おしげに見つめるのを。…あんな顔が出来たのかと思う。自分の知っているプロイセンは残忍に笑い、屍を踏み越えて、兵の先に立ち、血を浴び、邪魔になるものを容赦なく斬り捨ていく酷薄な顔しか知らない。
(…ううん。私は知ってた…)
ずっともう色褪せてしまった記憶。まだ、プロイセンがマリアと呼ばれていた頃、彼は時折、やさしい顔をして、自分を見つめることがあった。そして、壊れ物を扱うように触れてきた。
(……何で、こんなこと思い出しちゃうんだろ…)

 嫌いじゃなかった。
 羨ましかった。
 何もかもが、奔放で自由。
 前しか見てない、マリア。
 だから、憎かった。
 だから、嫌いになった。

 どうして、どうにもならないことで、私は彼を責めてしまったんだろう。
 そして、彼はそれに何も言わなかったんだろう。

 ずっと、信じてた。互いの背中を守りながら、一緒にいるんだと。

 でも、私はマリアの手を振り払った。
 離した手は二度と繋がれることはない。



「…ハンガリー?」

子どもの声にハンガリーは顔を上げる。青く澄んだ瞳がハンガリーを映す。
「何かしら?」
「お茶が入った。ここは寒い。客間に」
作品名:【APH】無題ドキュメントⅦ 作家名:冬故