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五月雨と君の冷たい手 後編

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「凍りついて、動けなく、なって……泣いたら、心配させるのに、涙が……出る」
 たどたどしく言いながら見つめる先で、震えているその手は頼りない。幼いころよりもずっと大きくなっているのに、初めて逢ったあの日よりも、ずっと小さく、やけに儚く見える。

 義勇が寒いのは、嫌だ。

 思った瞬間、杏寿郎は迷わずその手をつかんでいた。ギュッと握ってやれば、義勇はゆっくりと杏寿郎に顔を向けた。
「大丈夫だ。ホラ、こうしたらあったかい」
 ひとまとめに両手で包み込んでやった手は、冷えきっていた。冬のあの日と同じように。
「義勇が寒いときには、いつだって俺が温めてやろう。だから、ひとりで震えるのはやめてくれ。本だって俺がちゃんと預かっておく。絶対に汚したりしないし、なくさないと誓おう」
 冷たい手を握りこんで、杏寿郎は、真剣に宣言した。

 凍りついた白い手が、泣き出しそうに震える義勇が、温もりを取り戻しあの日のように笑ってくれるのなら、いつだってこの手を握ろう。杏寿郎は胸のなかで誓う。胸に強く、揺るぎなく、義勇への想いの炎が燃える。
 この火で、義勇を温めてやるのだ。心も、体も、全部。自分の全身全霊をかけて、もう二度とひとりで震えて泣かないように。

 つっ、と、義勇の頬を水滴が一滴、静かに零れて落ちた。青い目から流れた透明な雫は、義勇の手を握る杏寿郎の手にぽたりと落ちて、小さくはじけた。

「……杏寿郎は、あったかいな。前も、今も、あったかい……やっぱり、お日さまみたいだ」

 雨ではない雫は、ほんのりと温かく。きっと、舐めとったら海の味がするんだろうなと、杏寿郎は心の片隅で思った。


 雨雲に覆われた夕方の空は薄暗い。雨はやむ気配を見せず、しとしとと降り続いている。
 六月の湿った空気は肌寒く、けれど、握りしめた冷たい手は、わずかな温もりを伝えだしていた。