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カリス・カリステス

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目の前で繰り広げられている熱い戦いを、プリンスはどこか茫然とした面持ちで見守っていた。もちろん、物騒なことなど何もない。ここは深都において冒険者たちが特別に提供された宿の一室なのだ。失われた古代技術で守護された深都に魔物が入りこむ余地はない。さらには、冒険者同士がいさかいを起こし、花瓶の一つも割ったなら、あっというまに首根っこをつかまれて世界樹へと放り出されることだろう。ここはそれほどに安全な場所だ。
「余裕をかましていられるのも、今のうちじゃあああああ」
 見ろ! と。おたけびとともに、ファランクスがズボンの裾をまくりあげ、がつんとベッドの上に足をついた。彼の髪と同色の濃いブラウンの毛が、ふさふさと太い足を覆っている。鍛え挙げられた筋肉に適度な脂肪を蓄えた、いかにも重戦士らしい足なのだろう。だが、地肌の色すら見失うほどにびっしりとはえた脛毛は、少し離れた場所でそれを確認するを拒んでいた。
「鎧でがっちり守られているうちに、頭や目の働きまでも鈍ったか。己の美的感覚が衰えていることも気づかないとは大したものだ」
「なんだと!」
 ふ、と、心底馬鹿にしたかのような口調のウォリアーに対し、ファランクスがいきり立つ。偉丈夫から吹きつける殺気に動揺する様子もなく、ウォリアーは目を細めた。そして、十分な間をとってから、ぴしりとファランクスの足を指さした。
「毛深ければいいというものではない! 美しく引き締まった筋肉の動きを見るにはやはり地肌が見えていなくてはいけない! その動きを引き立て、自らも輝くというのが脛毛というもの、そう、そのバランスこそが脚線美というものだ! 貴様の足では、動かすたびに浮き出る筋肉の動きがわかりづらいではないか!」
 そう言って彼は、勢いよく自らの脚を示した。さらにはゆっくりと持ち上げ、ファランクスの隣に足をおいてみせる。なるほど、ウォリアーの言う通り、地肌が見える程度に生えた脛毛が、彼の動きに合わせ波打つことで筋肉の動きをよりわかりやすく強調している。すき間から見える脂肪の少ない地肌にたいするアクセントとなっていた。
 あの二人が勝負してるのって自分のベッドじゃなかったっけなー、いやだなー、今日あそこで寝るのかなー、と。プリンスはぼんやりと考えていた。土足を乗せているわけではないし、ベッドカバーはかけられたままではあるものの、なんとなくのむさくるしさはぬぐうべくもない。
 そもそもの始まりは、足の防具を外したウォリアーに対し、プリンスが見事な日焼けですねと口にしたことだった。ここ数日、彼らは船を出していた。海路の復活というのは実のところ建前に等しく、本音はといえば、深都と海都双方の義のせめぎあいから逃れようとしての行いだった。鮮やかな青空と、深い藍色の海は、何も言わず彼らの葛藤を包み込み、行くべき道を知るまでと穏やかな癒しをもたらした。魚群に、巨大な海の生物に、種々のかつて見たことのない品々に。彼らは笑いあい、感嘆の声をあげた。日に焼けた肌と、今まで知らなかった仲間たちの表情(かお)。そのしめくくりとも言うべき騒動がこれだった。ウォリアーが身につけている攻守一体の足鎧は、動きやすさと軽さが重視されているのだろう、ファランクスやプリンスが身につけているものに比べると、ずいぶんと地肌の露出が多い。攻撃を受けるよりも先に相手を始末できるという自信すら感じさせるそれを、このギルドのウォリアーは最低限肌に金属が当たらない程度のアンダーウエアの上に身につけている。そのため、海の上の強い日差しで、彼の足はまだらに日に焼けていた。海の上でつちかわれた気安さをもって、ほんの軽い気持ちで、プリンスは彼の露出についてのコメントを口にした。したところ、ウォリアーは胸を張って言った。脚線美は見せてしかるべきだろう、と。それに対し、ファランクスが口を出し、パイレーツがせせら笑い、今に至る。
 どうだ、反論の余地があるか、と。そう言わんばかりの表情で、ウォリアーは、ファランクスを見ていた。顔を紅潮させたファランクスは、ぎりと歯を食い縛り、ウォリアーの脚を睨みつけている。どうやら、ウォリアーが口にする美意識を理解できているらしい。
 脚線美というのは、麗しき女性のしなやかな脚に使う言葉じゃなかったかなー、早いとこしまってくれたほうがうれしいんだけどなー、と。プリンスは立派な脛毛脚を眺めながら、そう考えていた。
 畜生、と。ファランクスが負けを認める叫び声をあげたところに、人を小馬鹿にしたかの笑い声が割ってはいった。パイレーツだった。
「ならばパーフェクトな脚線美はおれのものというべきだな」
「なんだと!?」
 フン、と。パイレーツは無駄に長い髪をかきあげてから、自らのズボンをまくりあげて見せた。
 パイレーツの脚は、ウォリアーのものに比較的よく似ていた。ただ、彼に比べると微妙に色が白く、毛の色が明るい。普段ならば、光の元でじっくりと見比べてはじめて違いがわかるといったところだろう。だが、今はそうではなかった。パイレーツは差し出した脚をひねり、ふくらはぎの裏側を示して見せた。表と同様、均一な皮膚の色を保っている。
 ウォリアーがあっと声をあげた。
「理解したようだな。――そのようなまだらで、脚線美とは片腹痛い!」
 今度は、ウォリアーがうなる番だった。確かに、パイレーツのいう通り、ウォリアーの脚にはくっきりと足鎧の日焼け跡ができている。おそらく数日のうちには、ぼろぼろと皮がむけてくることとなるだろう。
「真に美しいものとは、普段は隠しておいていざというときにこそ披露するべきもの。ありがたみもなく見せびらかしたあげく、その状態を損ねるとは本末転倒!」
 だが。ウォリアーは、ファランクスほどあきらめがよくはなかった。
「くっ……のびやかな自然の姿の具現たる日焼けを愚弄するか!」
「自然な美しさなどというのは、小僧のころまでの特権だ」
 だが、パイレーツはまったく動じることなく、そう言いはなった。そして。そういえば、と。そうつぶやいてポンと手を打った。
「小僧といえば、若いのがいたなぁ」
 三人の視線がプリンスに集まる。他人事として、美しさを競い合う彼らを眺めていたプリンスは、まるで扉を抜けたらぎっしりとFOEがつまったエリアだったとでもいったような心持で目を見開いた。
 そういえばそうだ。同じギルドのメンバーだ、確かめておかねばなるまい。そうだそうだと口々に口にしながら近づいてくる三人に、プリンスは喉の奥でひっかかったみたいな悲鳴をあげる。
「いえ、僕はいいですから! 皆様がたにはとても及びませんし! ええと、う、うわああああああああ」
 何をどうしていようと、彼らはプロだ。それぞれがそれぞれに立派な経歴を持ち、世界樹へと挑んでいるのだ。この階層でギルドの行く末を思い悩むこととなったというも、彼らの力があってこそ。それが三対一。結論は見えている。
「……」
 ウォリアーは大きくためいきをついた。パイレーツは肩をすくめ、口元を歪める。ファランクスは幾度ももっともらしい表情でうなずいている。彼らが、プリンスの脚線美に対し、どんな評価をしたかは、一目瞭然であった。
「いかんな」
「いやいや」
作品名:カリス・カリステス 作家名:東明