カリス・カリステス
「しかしそれにしても」
「だが、脚の付け根の特殊な鱗は」
「なかなか発達していたな」
「将来性ということか」
「そういうことだろう」
「そうにちがいない楽しみだ」
「ま、気を落とすな」
最後だけなかよくハモりながら、彼らは景気よく丸裸に剥かれたプリンスを、生温かい目で見守っていた。プリンスは何が起こったか理解できないといった表情で、情けない格好のまま呆然としている。
「おおそういえば」
「わがギルドには、もう一人いたではないか」
そういえばそういえば、と、和気あいあいとする三人の声に、プリンスはわれにかえった。最後の一人といえば、ゾディアックだ。男の子といわれればそうだろうと思い、女の子といわれれば当然だとうなずく。実際のところは深い占星術の知識をものにした存在であるにもかかわらず、一見、キャンディとおもちゃで誘拐できてしまいそうに見える存在だ。
まさかあの子に向かって、こんな手荒なことを!? と。プリンスは、放り出されている服をを拾い上げ、身体を起こした。
「ちょっと待ってください! それは――!」
児童虐待という言葉をぐるぐると頭の中で回しながら、拾い上げたものを身につける余裕もなく、ただ股間だけをかくして、プリンスは彼らに手を伸ばした。
ゾディアックは、プリンスとは反対側のベッドにちょこんと腰を下し、首を傾げていた。にやにやと、そうとしか形容できぬ笑みをうかべ、それを取り囲む三人は、まさに児童虐待をせんとする悪役の図そのものだ。
待てこら変態ども。だれが変態だ。変態ではない。変態という名の紳士だ。そこでおとなしくまっとれこわっぱが。老若男女平等!
「ええいうるさい」
むかれるのすら止められなかったプリンスが、不安定な姿勢で彼らをとめられるわけがない。誰かのたくましい腕が、がつんとプリンスのあごにはいった。うわと悲鳴をあげるまもなく、よく磨かれた床で足がつるりとすべる。目の前に火花が散ったような気がした。
時間がとんだ。ずきずきと痛む後頭部を抱えて起き上がったところ、部屋は静まり返っていた。まさか衛兵に連れて行かれた後なのか、いや深都に衛兵なんていただろうか、児童虐待はどれくらいつかまるんだ明日からどうすればいいんだ。ぐるぐると走馬灯のような思考をまわしながら、あたりを確かめたところ、ウォリアーとファランクスとパイレーツの三人が平伏していることに気づいた。中心はゾディアックだ。
「あの……」
プリンスはおずおずとそう言って、彼らを指さした。ゾディアックはプリンスを見上げた。そして、にっこりと笑った。プリンスは首をひねる。ゾディアックはいつもどおり、ただにこにこしているだけだ。
ゆっくりと、砂時計の砂が落ちきるほどの時間がすぎた。彼らはまだ平伏している。ゾディアックは不意に首を傾げた。そして、見る? とばかりに、スカートの裾をつまんでみせる。なんとなくプリンスは首を横にふった。そして、ようやくひっぺがされた服を着るということに思い至った。
fin.