江戸忍始末記
【序章】
かつて戦さの火が耐えぬ頃、世には暗闇の中で野を駆け地を蹴った影がいた。
――ただ己のみを信じ、与えられた仕事を遂行する。
…それだけのことが、彼らには軽く、時として重い意味があった。
『公の為義の為と、誰でもなく、権力に身をささげるのが武士だと言うのなら、
世に揺れ、権力から湧き出てやまない闇を霧散させる為だけに身を削るのが
【忍び】というもの』
――それから時は流れ。
忍びは、もはや無用の時代となった。
戦乱の世に生まれ大成した彼らは、平らかになった江戸の世で居場所を失ったのだった。
戦の炎は消え去り、待ちわびた安寧に、人々は江戸の繁栄と末永い平和を願って生き行く。
――舞台は江戸時代。
殺伐とした気配は身を潜め、絢爛豪華な文化が花を咲くのを目の前に、新たな時代を迎える。