Spicy Sweet Candy
かわいいあのこ
「ローテ!」
冷たい廊下に甘い声が響く。
名前を呼ばれ振り向くと、ホテルベルリン四代目総帥・エレオノーレが微笑みながら手招きしていた。
「なんでしょうか、お嬢様」
「お誕生日おめでとう。プレゼントですわ」
ひょいと出された白い掌には淡いピンクの包み。添えられた赤いリボンには銀の刺繍で『Rote』とあった。
「う、受け取れません。私などがお嬢様に……」
一瞬浮き足立った自分を慌てて制したローテに、エレオノーレは背伸びをして顔を近づけた。
宝石のような瞳が潤んでいる。
「ローテ。私はこういう立場ですから、なかなか普通の女の子みたいに友達とお喋りすることができません。ですから貴女と二人で過ごす時間はとても得難いものなのです。齢は離れていても、凛々しくて可愛らしい貴女のような女性と他愛もない話をする時間が」
真正面からそう告げられて、ローテは咄嗟に声が出なかった。
「お、お嬢様……」
「私は貴女に、『命令』でこれを受け取らせるような無粋な真似はしたくないのです。わかっていただけますか?」
「…………」
鏡を見るまでもない。ローテの顔はその赤毛よりも朱く染まっていることだろう。
こくりと頷いて小さな包みを受け取る。促されるままにリボンを解くと、中から出てきたのはシルバーの上品な髪飾りだった。
「ショートヘアでも付けられるタイプのものを選びましたわ」
「ありがとうございます。……ですが、私にはこのような素敵なものをつけても見せる相手がいません」
ローテは苦笑した。
自分のような人間に、そんな相手ができるとは未来永劫思えない。
「あら、運命の行く末は誰にもわかりませんわよ。私だって明日素敵な人に巡り会えるかもしれませんし、ローテだって」
ゲルブが聞いたら泣きそうな台詞を吐いて、エレオノーレは天使のような笑みを見せる。
「それまでまた語らいましょう?シュテラには内緒で、『普通の女の子』として」
「…………ありがとうございます」
自然とローテの頬も綻ぶ。
確かに未来を決めつけてしまうことはない。
しかし今のローテにとっては、己が仕えるべき主人を心から愛せるというその事実こそが何より幸せであった。
作品名:Spicy Sweet Candy 作家名:露草