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Spicy Sweet Candy

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ゴッド・イン・ワンルーム


「降参だ」
そう告げて、ぼくは肩を竦めた。
テーブルの上に5枚ずつ並べられたトランプ。向かい合った相手の手札は、右からハートの一〇、J、Q、K、そしてA。
ロイヤルストレートフラッシュだ。
ぼくの手札は……直視したくもない。『Aエースのズキア』の面目はどこへやらだ。
顔を上げると、無感動なオニキスの瞳と視線が合った。
「少しは嬉しそうな顔しろよ、緋仔」
やりきれずに天井を仰ぐ。エグゼクティブルームの煌びやかな照明が目に痛い。
今回のような二人での任務のたび、合間を縫って緋仔にポーカーやブラックジャックを教えていたのは確かにぼくだ。だが、たった数回のやりとりでこの有様になるなんて誰が予想できただろう?
……いや、薄々はわかっていたかもしれない。
何せこの少年はシスター曰く「神に愛されている」のだから。体術、幻術、暗器、美貌、人を墜とすあらゆる手練手管を隙なく使い熟す。ギャンブルだって例外じゃない。この世の命運を全て手にしていてもおかしくはないだろう。
ぼくの仕事は明日から。内容はいつも通り。ターゲットを破産に追い込み、自ら死を選ばせる。失敗は許されない。
でも、こっちから誘っておいてなんだけど、流石に自信がなくなってくる。
「今回の仕事、おまえだけで充分だったんじゃないか?」
「……」
軽口に、緋仔は眉ひとつも動かさない。
イカサマで生計立ててるくせに真っ当に負けて年下相手に拗ねるなんてみっともないことこの上ない。だけどやっぱり悔しくて、トランプをさっと片付けようとする。
……と、ぼくの手が最後のカードに触れる前に緋仔が横から掠め取った。
「おい、返せよ。一応ぼくの仕事道具だぞ」
苦笑いを作って掌を差し出すも、相手が従う気配はない。
「ひ……」
少し声を荒げかけると、緋仔はその一枚をぼくに見せびらかすように掲げた。
ハートのエース。
ぼくの一番愛するカード。
まるで心臓を握っているかの如く、極上の暗殺者は微笑みを浮かべた。
瞳に乗る色は、窘めか煽りか。
何も考えていないかもしれない。
でも。
「……悪かったよ。返してくれ、ぼくの大切なカードだ」
溜息と共にぼくは言った。
緋仔はこくりと頷いて、ぼくの掌に丁寧にカードを置いた。
そのまま立ち上がり、洗面所に消える。しばらくするとシャワーの音が聴こえてきた。
「……まったく」
部屋に残されたぼくは、大の字に寝転がった。
自信を失わせたり、逆に尻を叩いたり。人類最高の暗殺者様の思考は読めやしない。
でも嫌じゃない。嫌いじゃない。
神を信じてなくたって、踊らされるスリルの良さは知っているからね。



作品名:Spicy Sweet Candy 作家名:露草