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Spicy Sweet Candy

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パイカルくんのすてきな旅行記?


ぼくの名前はパイカル。
現在、上司とふたりで石畳の上を馬車に揺られています。
「……ウァドエバーさん、この行動は任務に関係するのでしょうか?」
真剣にスマホで動画を撮る姿に、ぼくは恐る恐る聞いた。
「いや、仕事は今晩からだ。それまでにこの街を散策し尽くす予定だ。計画は私が全て立ててある、心配には及ばない」
「……」
じゃあなんのために、と更に聞きかけて止める。ウァドエバーがそう言うのなら、反対する理由もない。
イタリアへ来たのは初めてじゃない。小さい頃に家族で遊びに行って、海を見たり美術館を訪れたりこんな街並みを歩いたり。今も楽しいといえば楽しいけど、物珍しいというほどの感慨はなかった。
がたがた鳴る馬車の上で、ぼくはウァドエバーの横顔を眺める。
ウァドエバーはよく目的も告げずにぼくを色々なところへ連れて行ってくれる。「キリンやゾウを見ないまま大人になってはいけない」というあれだろうか。気持ちはとてもありがたいのだけど、ぼくはそういう意味での見識は家族や友だち、大学の仲間に充分深めてもらっている、と思う。
……長々と言い訳したけど、要は心苦しいんだ。
おそらくウァドエバーの思惑とまるで違うところに、楽しみを見出している自分が。
馬車が止まった。
シニョーリア広場から街を一周し、同じ場所に戻ってきたのだ。
「Mille Grazie(ありがとうございました).」
お金を払ってその場を後にする。
次は何をするのだろう。行く道にあったメリーゴーランドに乗せられたりしないだろうな、とぼくが冷や冷やしていると、ウァドエバーはある店の看板を指差した。
「中で食べられる。入るぞ」
着いたのはジェラート屋だった。
中に客は多かったけど、息苦しくなるほどじゃない。数分して店員にオーダーをする。
「えーと……ダブルでピスタチオとコーヒー味、上に乗せるマカロンはバニラでお願いします」
「トリプル。ブラッドオレンジとダークチョコレートとストロベリー、コーンにチョコレート追加、マカロンはローズ」
ウァドエバーの注文にぼくは耳を疑った。
普段は消化できればなんでもいいレベルで食へのこだわりが薄い人なのに。
気まずいままテーブル席に座る。
溶けないうちに効率よくジェラートを食べていく。例えカジュアルな場であっても、ウァドエバーの前でみっともなく平らげるわけにはいかない。
半分ほどが胃に消えたあと、すっとスプーンが差し出された。
「食べなさい」
思わず顔を上げた。
ウァドエバーは無表情のまま、混ざり合って形容し難い色のジェラートをぼくに掬わせようとしてくる。
逆らえるはずもなくスプーンを咥えた。
奇妙で刺激的な味わいが舌を包み込む。
「…………ありがとうございます」
ぼくがそう言うと、ウァドエバーは満足そうに微笑む。
寵愛も優越も悪戯も、溶けたアイスのように混ざった微笑み。
悪魔が笑うときはこんな顔をするのかもしれない、と思う。
だけど本当は、心の奥底では、ぼくはこの顔を待ち望んでいるのだ。
「ウァドエバーさんもひとくちどうぞ」
精一杯真似をして意地悪く笑ってみる。
ウァドエバーは目を細め、指先についたアイスごとスプーンを咥え込んだ。
「無難な味付けだな。探偵卿たるもの、ときには冒険も必要だ」
「……はい!」
まだまだ修行が必要だ。
だから今日もぼくはウァドエバーと共に行く。
街でも海でも美術館でも、世界のあらゆるどんな場所でも、ぼくの手を引く彼の表情を見逃さないために。




作品名:Spicy Sweet Candy 作家名:露草