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Spicy Sweet Candy

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Patience


「それ、Mからの誕生日プレゼント?」
仙太郎の銀の瞳は、デスクに置かれた花瓶に注がれている。
「どうしてそう思うのかしら?」
報告書から顔を上げず、ルイーゼは訊き返した。
「ルイーゼさんが自分のオフィスに置くのって大体お土産とか貰い物でしょ。プレゼントに花をチョイスするのは仕事だけの間柄じゃ考えにくい。他の男だったらそもそも渡す前に阻止されてるだろう、と思って」
「……その推理力をもうちょっと任務に生かしてほしいわね、仙太郎ちゃん」
「ちゃんと解決はしたでしょ?」
部下の悪びれない笑みを、ルイーゼは溜息で受け流した。
シンプルな硝子瓶に生けられた花。淡い紫の花弁は、皮肉なほど目に優しい。
今日の誕生花である。
「シオンの花言葉って…『愛の象徴』だっけ? あと『優美』とか『繊細』とか」
「『忍耐』よ」
諦めたようにルイーゼは答える。
この花を贈られたのは初めてではない。通話越しの決まり文句も含めて。

──ぴったりだと思わないかい? 君はいつまで私に忍耐をさせるのだろうね。

眉間を抑えるルイーゼに、仙太郎は声を潜めて言った。
「本気で嫌なら捨てればいいのに。俺だってセクシャル・ハラスメントの横行する上層部なんて嫌だしさあ。そこのところ、見ててよくわかんないんだけど」
「……」
若者は痛いところを突く。
いつでも精一杯の拒絶をしているつもりだが、傍目にはそうは映らないのかもしれない。しかし、ルイーゼがこういうところで付け入る隙を残しているのも確かだった。
そう、決定打に欠けるのだ。己と彼の関係は。
「だって……花に罪はないでしょう?」
使い古された一般論を嘯いて。
未だ煮え切らない顔の部下に、探偵卿お目付役は次の任務の説明をする。


全く大人のしがらみなんて碌なものじゃない。
自ら断ち切る覚悟よりも、人任せに亀裂を待つ忍耐ばかりが身についてしまうのだから。



作品名:Spicy Sweet Candy 作家名:露草