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自分らしく
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彼方から 第四部 第四話

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 彼方から 第四部 第四話



     …………こい


 闇が蠢く――


     …………てこい


 深い、深い闇――
 地の奥底、決して陽の当たらぬ深淵――


     …………つれてこい


 『闇』が、その意識が、蠢き始める――
 外へ出ようと、表に出ようと――


     ……我が元に


 取り込み、溜め込み――
 膨らませ続けた『力』で――


     ……機は熟した
     ……我が手の中にもどる時
     ……あの魂が


 欲するものを得んとして――
 再び――


     ……我がものとなる時が来たのだ


 己の意の儘にせんとして――
 闇が、蠢く――


     …………つれてこい


 歪んだ欲望と禍々しい気を、『世』に放ち――


     ……つれて、こい……!!


 望む『全て』を、手中に収める為に――――――



          **********



     イザークが起こした
     虹の奇跡にわき立つ祭りの日
     
     華やかな興奮と
     希望に包まれた賑やかな夜
     あたしは……
     
     はしゃいでいた



          ***

 慌ただしい足音が聴こえる――――

 夜の帳が降りた町は昼間、『奇跡』の起きた祭の興奮もそのままに、眠りが身に満ちる時を迎えるまで、町の住人も祭を見に来た客も、華やかな喧騒と浮き立つような陽気な雰囲気を、愉しみ続けている。
 そんな町の中を、一人の男が慌ただしく、走り抜けてゆく……

「町長!」
 祭の広場から少し外れたところに建つ、詰め所。
 休憩所や、何かあった時の為の対策所としても使用する為なのだろう、そこには、町長の老補佐役を含めた町の長老たちが数人、テーブルを囲み、お茶を嗜みながら寛いでいる。
 男は走り込んできた勢いもそのままにドアを開け、開口一番、そう発していた。
 本来であれば、『祭』を取り仕切る長として、町長もそこに詰めていなければいけないのだろうが……
「――町長は……」
 ドアに手を掛け、一歩中に足を踏み入れた状態のまま、男は、自分を見やる長老たちを見回し、呟くようにそう訊ねていた。

「ああ……」
 男の、いきなりの訪問に少し驚きながら、
「祭見物に出掛けたよ、広場内には、いるんじゃないかな」
 振る舞い掛けたお茶のポットを片手に、立ち上がったまま、老補佐はそう応えていた。
「もう、浮かれちゃってねぇ」
 嬉しそうな笑みを浮かべ、老補佐は言葉を続ける。
「失敗するって言われていたこの祭りも、無事大成功のうちに終わろうとしているし」
 つい先刻……皆と連れ立って、本当に嬉しそうに詰め所を出て行った町長の姿が、眼に浮かぶ。
「一時は祭神をやる人もいなくて、どうなることかと思っていたけど……」
 ここ数日の経緯を思い返しながら、
「身代わりは見つかるわ、奇跡は起きるわで……」
 安堵の溜め息と共に老補佐は笑みを零し――
「――っとにねぇ……なんであの時、あんな風が吹いたのか……」
 沁々と……共に詰めている長老がそれに応えるように、柔らかな笑顔で呟く。
「だよねぇ」
 我が意を得たりと、長老の呟きに大きく頷きながら、
「あ、お茶飲んでく?」
 老補佐は序のように、男に声を掛けていた。
「いや、いい。有難うっ」
 少し焦ったように言葉を返し、男はドアを開け放したまま、今度は祭を見に来た客で溢れる広場へと、駆けてゆく。
「あら、行っちゃったよ」
「何なんだ? 一体……」
 その、あまりにも慌てた様子に……
 老補佐と長老たちは首を傾げ、遠去る男の背を、訝しげに眺めていた。

          ***

 夜が、ゆっくりと更けてゆく。
 大きな篝火が幾つも焚かれ、柔らかな光を放つ提灯が頭上に数え切れぬほど揺れ、夜空に瞬く星々の煌めきを掻き消している。
 人で溢れる広場は明るく、楽しく――ざわめきと歓声がまるで音楽のように耳に流れ込んでくる。

 ――なんか
 ――久しぶりだな……

 ――こんな、浮き浮きした気分

 気持ちが華やぐ。
 子供のころ、家族みんなで出かけた、『夏祭りの夜』を思い出す。
 神社の境内に並ぶ露店。
 集まった人々の騒めき、呼び込みの声。
 お囃子の音、輪になり踊った盆踊り。
 淡く、ぼんやりと光り並ぶ、頭上の提灯……
 花火の音、火薬の匂い――
 毎年、同じ露店が並び、同じような催し物をやっていると分かっているのに、何故か毎年出かけて行ってしまうのだ。
 一年に一度の、特別な日を待ち焦がれて。
 知っているはずの場所が見せる、いつもと違う様相。
 だからなのだろうか……学校でいつも顔を合わせているはずの友達と偶然出会うと、どこか気まずく、何故か嬉しく思うのは――
 だからなのだろうか……少し、いつもと違うことを、してみたくなるのは――
 そんな懐かしさと、祭の成功と奇跡に浮き立つ気持ちを抱えながら、ノリコはイザークと二人……賑やかな祭の広場を散策していた。
 勿論、懐かしいと感じるのは『祭の雰囲気』だけなのだが、それだけでも何となく、得した気分になる。
 擦れ違う人々の顔には笑顔が浮かび、この先きっと何事も『上手くいく』と、本当にそう思えてくる。
 しかし、こうした『場』は不慣れなのか、イザークはあまり……『楽しんでいる』ようには見えない。
 辺りを見回す様子はどことなくだが、落ち着かないような――そんな感じが見受けられる。

「イザークさん! ノリコちゃん!」

 不意に……
 陽気で明るい声音に呼び止められ振り返れば、満面の笑みで思い切り両手を上げて振っている、町長の姿。
 すぐ隣には、ニーニャとカイザックの姿も在る。
 二人は優しい手招きに誘われるまま、三人の後を付いて歩き始めていた。
 ほどなくして……

「ねっ、ねっ」

 ノリコはとても楽しそうに――
 そして、興味津々で――
「あの人達、あんな高いところから飛び降りて、大丈夫なの?」
 広場の一画に設えられている、大人の身の丈の二倍以上はありそうな高い台を指さし、ニーニャたちにそう、訊ねていた。
「うん」
 飛び降りる女性たちの、怖さを愉しむ声が聴こえてくる。
 ニーニャは大きく頷きながら、
「下に皮が張ってあってね、ちょうどいい具合にバウンドするのよ」
 そう説明してくれる。
「女性を称える花祭の催しだから、あれは女性専用なの。皮の上には、花が敷き詰められてるわ」
「――っ! 可愛い!」
 続けられた彼女の言葉に想像が膨らみ、ノリコは思わずそう、口走る。
「面白いわよ、やってみたい?」
 少し背の低い自分に目線を合わせ、訊ねてくれるニーニャに迷うことなく――
「はいっ」
 ノリコは即答していた。

          ***

 町長たちの後ろを付いて歩く、祭の広場。
 擦れ違う人々の笑い声や陽気な語り合い。
 それに、ノリコの弾むような声音が、耳に心地良い。
 軽やかな足取りも、ニーニャとの会話も本当に楽しそうで……
 そんな彼女を見ていると、素直に嬉しく思える。