二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

青に溺れ、赤に染まる

INDEX|3ページ/3ページ|

前のページ
 

 義勇も無言のまま、無惨に視線をやるでもなく自転車のスタンドを外しまたがっている。私の家まで送れと命じれば、義勇は従うだろうか。だが義勇は、常日頃から無惨が電話一本で車を呼びつけるのを目にしている。なにも言わずにいれば、このまま「それじゃあ」と無惨をひとり残して去るぐらいはしそうだ。
 言葉をかけあぐねていると、自転車にまたがったまま義勇が振り向いた。
「乗らないのか?」
 小首をかしげた義勇はいつもの無表情だが、どこか幼く見えた。キョトンとしている。無惨とここで別れるなど、露と思っていない。そんな口調と瞳だった。



 なぜ今日にかぎって義勇が、自分の誘いにうなずいたのか。無惨が義勇に問えたのは、義勇の住む質素なアパートに転がり込んでからだ。
「おまえはしつこいから。いい加減、根負けした」
 言葉はまったくかわいげがないが、クスリと笑った義勇の顔はほのかに艶めき、青い瞳はまっすぐに無惨を見つめていた。揺らめく瞳は少し潤んで、ゆっくりとまばたきした睫毛の先が小さく震えている。

 アスリートは体毛を処理する者が多いと聞くが、義勇もそれに倣っていることを無惨が知ったのは、その夜のことだった。

 懸命に性急さを堪えながら暴いた義勇のしなやかな肌身は、どこまでも白く、黒々とした茂みとのコントラストに息を飲んだ。
 淡く、赤く、染まっていく白い肌。ギシギシと軋む安物のベッド。キュッと丸められたつま先が、やけに目に焼きついた、初秋の夜。薄いカーテンの隙間から、月が白く輝いていた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「なんでつま先なんか舐めたがるんだか……」
 ふてくされたような声音に、無惨はうっそりと笑う。嫌がるそぶりをするくせに、義勇のつま先はいつでも整えられている。無惨が初めて唇で触れた、あの夜から、ずっと。
 もう泳ぐことなどめったにないのに、義勇は体毛だって今も処理している。その理由もまた、つま先の手入れと同様なのだろう。まったくもって優越感をくすぐるのがうまい。しかも、おそらくは無意識にやっているのだから、かわいいものだ。
 ヒギンズ教授を気取るつもりはないが、義勇を磨き上げるのは、無惨にとっては心躍るものだった。物慣れぬ義勇に少しずつ上流階級の世界をしみ込ませていくのは、たやすかったとは到底言いがたい。それでも最近では、義勇の価値観と無惨の価値観の境界線は、ゆるやかに馴染みだしている。
 同居はまだ了承してもらえずにいるが、おそらくはそれも時間の問題……とは、楽観が過ぎるだろうか。
 まぁいい。かわいげなく不満を露わにしようとも、義勇はここにいる。
 一生手放す気などないのだ。時間はまだある。
 喉の奥で忍び笑う無惨の顔を、義勇の足が押しやった。
「その笑顔、ムカつく」
「……足癖が悪いぞ」
「うるさ……ひゃんっ!」
 ぺろりと足の裏を舐めてやれば、なんとも愛らしい声で小さく叫んで、義勇は思い切り眉を寄せた。
 青い瞳が潤んでいる。凪いだ波間のように揺れる青。

 あぁ、溺れる。溺れている。いっそ、息絶えるまで、この瞳の青に飲まれてしまおうか。

 熱を帯びだした青に見据えられ、無惨は、義勇の白い肌を己の瞳と同じ色に染め上げるべく、義勇の体を抱きあげた。するりと首に回された腕に、満足げに笑いながら。
作品名:青に溺れ、赤に染まる 作家名:オバ/OBA