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オニか、ヒトか。

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…これも嫉妬の類なのだろうか。
どこか不貞腐れた様子で言うものだから、こちらも調子が狂ってしまう。


「まあいい。今日は杏寿郎の新しい顔を知ることができたからな。お前に免じてその柱は見逃してやる」

「何様なんだ、君…」


何故か偉そうに言う猗窩座に苦笑する。
ひとまず宇髄は見逃してもらえたらしい。

その直後、前触れなく手が伸びてきて反射的にのけぞる。しかしこちらの反応など構わず、猗窩座の指先がそのまま右の頬に触れてきた。


「……」

「…なんだ、いきなり」


無言で端正な顔に見つめられると非常に落ち着かない。
固まったまま訊ねると、勝ち誇ったような笑みが返ってきた。


「笑ったな、杏寿郎」

「……笑った、だろうか」

「ああ。やはり何が面白いのかわからんが、お前の笑顔が見られて俺は嬉しい」

「ーー…。」


臆面なくぶつけられる言葉に、反応ができなくなる。
不覚にも、体温が上がっていく。


「君の……そういうところは、心臓に悪い」

「…!その顔もいいな。もっとよく見せろ」

「絶対に嫌だ」

「何故だ!」


赤面したところに追い打ちをかけられ、更に顔に熱が集中していく。
腕で顔面を隠すと、その腕をどかそうと猗窩座が中腰になって腕を掴んできた。

しかし、結果的に腕は剥ぎ取られずに済んだ。


猗窩座がぴたりと静止し、何かに意識を傾けるようにすっと目を伏せる。
腕の隙間から怪訝そうに様子を窺うこちらに、猗窩座は嘆息混じりに小さく呟いた。


「悪いな、杏寿郎。俺はもう行かなければならん」

「…何をしに行くつもりだ」


立ち上がる相手を見上げ、低く訊ねる。
今しがたまでころころと忙しかった表情が冷たくなり、纏う空気が沈澱していくのがわかる。


「お前が気にするようなことではない。探し物のほうだ」


そう答えながら、苛立ちを隠さずにぼやいた。


「…杏寿郎との時間を台無しにしたのだ。有益なものでないなら殺す」

「誰のことだ…?」

「大嫌いな奴だ。あいつも鬼だから殺しても死なん」


吐いて捨てるようにそう言うと、それ以上の追求を逃れ猗窩座は大股で店を出た。
手早く会計を済ませて小走りに煉獄が追いかけると、そうだ、と桃色の頭が振り返る。


「次に会うときは何か食いものを持ってこよう。杏寿郎の食いっぷりは気持ちがいい」


荒んだ表情を僅かに和らげ、眉尻を下げる猗窩座に曖昧に頷く。


「それは有難いが……人が食えるものだぞ」

「わかっている。お前は俺をなんだと思っているんだ」

「鬼だろう」

「それは違いない」


困ったように笑う猗窩座につられ、小さく笑う。

そんなこちらを満足げにじっと見つめる猗窩座の顔に、うっすらと青い線が浮かび上がってきた。
そしてそのまま、何も言わずに背を向けて人混みに消えていった。


「……」


店で猗窩座の指先が触れた頬に手をやる。
温かい、血の通った指。
戦わずに済むなら、と甘い考えが頭をよぎるが、彼は鬼なのだ。
今は人を食らわなくとも、命を繋ぐためにいずれは食らう。

両手で思いきり両の頬を引っ叩いた。
すれ違った数人がぎょっとしたように振り返ったが、気にしない。

絆されるな。俺は炎柱。
力をつけ、機を窺い頸を斬る。

深く息を吸うと、胸に僅かな痛みが走った。
気合を入れれば入れるほど、その痛みは無視できないものになる。

情が移りつつあることに気付かないほど、自分もおぼこくはない。


「…うむ。まずいな」


苦虫を噛み潰したような顔で、ひとり呟いた。
あまり良くない心境の変化に、我ながら振りまわされる自信がある。
今から頭を悩ませる煉獄だった。


fin.
作品名:オニか、ヒトか。 作家名:緋鴉