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真白の雲と君との奇跡

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 俺は、さっき千寿郎に嫉妬したのか……? 千寿郎の唇に触れた指を、義勇が舐めたから?

 よもや千寿郎にまで嫉妬するなんて。自分で自分が信じられず、杏寿郎は、ルーペをのぞきこむ義勇の横顔を呆然と見つめた。視線は自然と唇に向かい、知らずゴクリと喉が鳴る。
 義勇の口は小ぶりで、唇も薄い。けれども艶やかにほんのりと赤く、杏寿郎はなんとはなし弁当のなかで光っていたプチトマトを思い浮かべた。

 あの唇は、トマトよりも瑞々しく甘いのかもしれない。

 ふとそんなことを考えたら、全身に火がついたようにカッと身のうちが熱くなった。
「やっぱり石英だ。結晶が見える。水晶かも……杏寿郎?」
 黙りこんで真っ赤な顔をしている杏寿郎を、不思議そうな目で義勇が見つめてくるが、なんでもないとごまかす余裕さえなかった。
 触れたい、なんて。なぜ自分は思ったのだろう。友達の唇に触れる? そんなの一度も思ったことなどない。誓ってもいい。どんなに大好きだろうと、義勇に対して一回だって、そんな不埒な考えが浮かんだことなどなかったのに。
 自分の名を呼ぶその唇に、触れたいのは指先だけじゃない。あの唇に、唇で触れたい、だなんて。そんなの、友人同士ですることじゃない。
 だって、それは。
 だって、それじゃ。

 唇同士での触れ合いを、なんと呼ぶのかぐらい、杏寿郎だって知っている。
 キスがしたいと、自分は考えた。いちばん大好きで大切な、友達の義勇に。

 遠く聞こえる海水浴客たちの喧騒。風が強く吹きつけ髪をなぶる。ひびく潮騒は、騒ぎたてる心の音のようにも聞こえた。
作品名:真白の雲と君との奇跡 作家名:オバ/OBA