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奏でろヴィヴァーチェ・コンブリオ

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さて、これは一体どうしたものか。
ユーリは左手に携えた刀に続く紐を強く握り締めた。露店街の裏にある薄暗く狭い道の途中、真上に昇る陽はとても眩しいのに、ユーリの周りを取り囲む人間たちの雰囲気は最悪だった。
ユーリ・ローウェルか、という声に目を細める。名乗った覚えはない。確認してくるような気味の悪い視線に思わずユーリの視線も鋭くなった。今や自分の名前が誰に知られていようと問題はないが、この人数には少々頭痛がした。ちり、と空気が揺れる。これは殺気だ、とユーリは口元を歪めた。ぴりぴりと皮膚が痺れる様な感覚が襲い、それでも何故か心が躍りだす。
さて、これは一体どうしたものか。
ユーリはもう一度周りを確認するかのように視線だけを動かした。周りを囲む人間のどれも、濁っている目をしている。全部確認した後、ユーリは息を吸って、そうだけど、と低く答えた。刹那、殺気が揺らめいて、ユーリは動いた。
姿勢を低くして一振り目の剣先を避け、背後から来た刃をぐるん、と身体を反転させて左手の鞘で弾いた。長い黒髪が宙を踊り、そのままの勢いで数人をまとめて吹き飛ばし、驚いている前の人間を押しのけ、縫うように走り出す。ぴりぴりと皮膚が痺れる。まだ殺気が消えない。ユーリは細い道を駆けながら後ろをちらりと確認した。すると小型のナイフがユーリの顔真っ直ぐに飛んできたので、咄嗟に横に飛んで避ける。
危ねぇ、とユーリは呟いた。だけど顔は笑ったままで、次に飛んできたナイフを鞘で弾き落とす。向こうからこっちだ、と切羽詰った声が聞こえた。まだまだ増援がいるのか、とユーリは楽しそうに呟いた。こんなに危ない状況なのに、高揚感は高まってゆくばかり。とりあえず、と切りかかってきた一人と応戦して、力で押して剣を弾く。ばちっと剣と剣の間に火花が散り、相手がよろけると同時に足で思いっきり蹴り飛ばした。息を付く暇もなく、地面に見えた影に上を見た。屋根の上から落ちてきた人間を後ろに転がって避け、すぐに立ち上がって身体に勢いをつけて反転させ、宙に浮いて回り、蹴りと鞘で殴った。はあっ、と息を吸ってまた走り出す。このまま露店のある方向へ行けば、関係のない人間を巻き込むことは違いなく、かといって全部を一人で捌ききるには多すぎた。ユーリは高揚し、駆ける脚とはまったく別なところで、冷静にどうするべきなのかを考える。もしかしたら、一人ぐらいは殺さないといけないかもしれない。ぐっと力を入れた左手を意識しながら、ユーリは走り続け、追ってくる気配を確認しながら分かれ道の一角に身を潜めた。
呼吸がうるさい。それでも感覚が研ぎ澄まされていて、ユーリは楽しくて仕方なくて目を閉じた。呼吸を整えてから、薄暗く狭い壁同士がせめぎあっている建物を見上げる。冷たい空気。一歩ここから出れば、なんともない平和な空気。こんなぴりぴりと皮膚が痛み、震えるような感覚などないというのに、と苦笑を浮かべた。たくさんの足音が聞こえる。もうちょっとうまくやれよ、と誰にでもなく呟いて、またユーリは走り出した。その瞬間目の前を飛んできた炎に目を見開き、だけどすぐさま後ろに跳んで、そのまま道を逆走し始めた。どうやら魔術を使える人間もいるらしい、と一瞬肝を冷やしながら目の前に迫って飛んだ男をスライディングすることでやりすごす。ユーリはたかが一人にやりすぎだろ、と振り返ることもなく駆ける。まともにやりやったらきっと体力が持たないと判断した。そしてまた分かれ道の一角を曲がるとき、ふいに何かが聞こえてユーリは足を止めた。整わない息の中、周りを見回しながらその聞こえた何かを探す。

「はぁい、結構ヤバイ感じ?」
「は・・・はっ・・・はあっ、高みの見物かよ趣味わりぃな」

せめぎあう建物同士の窓から、レイヴンの顔が出てきた。ユーリは息を荒くしながら、それを見上げてニヒルに笑う。なんとか飛べば届く位置でレイヴンは口元を吊り上げて、ユーリを見てきた。どうする、と試されている気分で、正直不快だ。だけどそうも言ってられず、だんだん大地を蹴る足音が迫ってくるのが聞こえ、ユーリは迷わず地を思いっきり蹴って壁伝いに飛び、その開いている窓に飛び移った。