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残念ながら重症です、お幸せに

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 病は気からと言うだろう? 私の可愛い子供たちが、悩みや心配事で体を壊したりしないか私も気になってね。自分では悩んでいることにすら気付かない子だっているだろうし、友人や家族には話せなくても、医療だと思えば悩みを口にできる子もいるんじゃないかと思ったんだよ。柱稽古もかなり進んだようだし、悩みがあるのなら今のうちに対処したほうがいいからね。


 ご自分こそ病床にいらっしゃるお館様がそうおっしゃるならば、しのぶだって否やはない。問診の大切さも重々承知している。


 とは言っても、問診を受けに行くのすらためらう子だってきっといるだろう? だからね。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「まずは、柱も問診を受けたという実績を作るべきというのは、私も理解しています。お館様のお考えに反抗する気もありませんし。ですから問診を受けていただくことに文句はないんですよ? でもですね?」
 そう言ってしのぶは、目の前に座る男の不愛想極まりない仏頂面に向かい、一枚の書類を手にニッコリと笑ってみせた。
 それは、問診の前段階として、いくつかの質問に答えるようにと柱に配った調査票だ。反応は様々だったけれど、お館様の発案となれば従わない者などいるはずもなく。ほどなく集まった回答は、おおむね問題はなし。

 そう、おおむね。正確には、一名を除いて。

「冨岡さん、本当にこの回答ふざけているわけじゃないんですよね?」
 手にした調査票をひらひらと振ったしのぶに、義勇の眉がかすかに寄せられた。疑われて不満なのだろうが、しのぶのほうこそいっそ不満を顔に出したいくらいだ。無言で小さくうなずいた義勇をじっと見て、深く溜息をつく。
「……真面目に書いたのなら、あなたの心理状態、かなり危険ですよ?」


 ここ一ヶ月の自分の状態を問ういくつかの項目があり、四段階に分けた回答の内、一番自分の心境に当てはまるものにそれぞれ丸をつけるというだけの、簡単な調査だったのだが……。

「活気がある、元気いっぱいだ、イキイキしている……これらが『ほとんどいつもあった』なのはいいです。元気いっぱいの冨岡さんやイキイキしている冨岡さんなんて、想像もできないですけど、ええ、いいことだと思います。でも!」
 義勇に向けた調査票を指でトントンと叩きながら、しのぶはにこやかに笑いながら蟀谷(こめかみ)に青筋を浮かばせた。
「内心腹立たしい、不安だ、落着かない、悲しいと感じる、動悸や息切れがする、食欲がない、よく眠れない。これ全部、『しばしばあった』ってなんなんです? 矛盾もいいところじゃないですか。というか、これじゃ冨岡さん、本当に病気の疑いがありますよ?」
 そんな健康そのものな肌艶でふざけたこと抜かさないでくださいますかぁ? と言いたくなるのを、ぐっと飲みこむ。
「……正直に答えた」
「そうですか……わかりました、私も腹を据えました。一つずついきましょう」

 柱への調査は簡単に終わると思ってたんですけどね……長くなりそうです……。

「ここ一ヶ月で、冨岡さんの身の回りになにか変化はありましたか? どんなことでも結構です、教えていただけますか」
「……柱稽古を……」
 少し視線を落として口ごもるように言う義勇に、しのぶはポンと手を打った。
「ああ、たしか炭治郎くんに柱稽古をつけてらっしゃるんですよね」
 なるほど、とカルテに書き込みながら、しのぶはちょっと眉を寄せた。
「……冨岡さん、一つ確認なんですけど、この活気があるとか元気いっぱいって、炭治郎くんのことじゃないですよね? ひょっとして、炭治郎くんがほとんどいつも傍にいたって意味で丸を付けたんじゃないんですか? 駄目ですよ、ちゃんとご自分の心境について回答しないと」
「それぐらい理解している」
「……そうですか。間違えたと言われるほうが話が早かったんですけど、残念です」
 活気があるのも元気いっぱいなのも、イキイキしているのだって、全部炭治郎のことなら納得できるのに。
「それでは、柱稽古を始めてから、冨岡さんはほとんどいつも元気いっぱいにイキイキしてらしたと。そういうことでよろしいですか?」
「まぁ……」
 冨岡義勇と元気いっぱい……なんて不似合いな言葉だろう。いやまぁ、義勇だって人間だ。元気いっぱいなときだってあるだろうけれど。

 でもきっと、そんなときでも無表情なんですよね冨岡さんは。と、しのぶはちょっと遠い目をした。

 元気があろうとなかろうと。活気があろうとなかろうと。常に無表情、不愛想、仏頂面。それが水柱、冨岡義勇という男だ。
 諦観を滲ませつつも気を取り直し、しのぶは問診を続けた。

「それはどんなときにそう感じましたか?」
「それは……」
 また口ごもり、そのまま沈思黙考に入った義勇に、しのぶの額にまた青筋が浮かんだ。
「冨岡さーん? これは問診です。医療行為です。正直にお答え願えますかぁ?」
 ぐっと眉を寄せ義勇は小さく嘆息するが、はっきり言って溜息をつきたいのは私のほうですよと言いたくなる。それをこらえて、しのぶは義勇が答えるのを待った。
 患者が心を開くまで辛抱強く待つのも、医療従事者として大事なことです。自分に言い聞かせること暫し、ようやく義勇が口を開いた。
「炭治郎に稽古をつけてやっているときや、休憩中に話をしているときだとか……炭治郎が話すのを聞きながら食事しているときもだ。目覚めてすぐに、炭治郎がおはようございますと笑いかけてきたときにも、そういう心境になる。あとは……炭治郎が風呂で背中を流してくれているときもか。それから閨で炭治郎が……」
「ちょっと待った! えーと、すいません、少し話を整理させていただいても?」

 この男、いったいなにを言いだした?

 話をさえぎられた義勇が首をかしげているが、知ったこっちゃない。なんだか話が変な方向に進んでいる気がする。
「あの、今のお話をうかがうかぎり、冨岡さんは柱稽古が始まってからほとんどずっと、一日中炭治郎くんと一緒にいるように聞こえましたが……」
「毎日じゃない。炭治郎がいない時間もある」
 少し不満げに聞こえるのは気のせいだろうか。いや、むしろ気のせいであってほしい。
「……次にいきましょうか。えー、では……なんだか嫌な予感がするので聞きたくありませんが。聞いたらおしまいって誰かが頭のなかで忠告している気がしますけれど! この『内心腹立たしい、不安だ、落着かない、悲しいと感じる、動悸や息切れがする、食欲がない、よく眠れない』……これらがしばしばあった、というのは?」

「……炭治郎が」

「ですよねー! わかってました、ええ、わかってましたよ私は! わかってましたとも!」
 机を叩くドンッという音で言葉をさえぎられたうえ、いきなりしのぶに叫ばれて、義勇が珍しく困惑を露わにおろおろとしているが、それどころじゃない。
「こ、胡蝶、その、大丈夫か?」