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残念ながら重症です、お幸せに

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「あら、こんにちは冨岡さん。そしてさようなら」

 なんで!? って顔をされても、そう言いたくもなります。

 お館様の発案で始めた悩み相談の問診は、最近ではそこそこ隊士が来るようになった。そのぶん、しのぶの忙しさも増すわけで。ようやく次の希望者で今日の問診は終わりと思ったら、入ってきたのは仏頂面の同僚。しかも、ほんの一週間前にやたらと疲れさせられたばかりの。
 とはいえ、悩みがあるのなら解消の手助けをするのが、お館様から下されたしのぶの役目だ。

「冗談はともかく、今日はどうされましたか、冨岡さん」
 義勇と顔を合わせるのは前回の問診以来だ。けれど、炭治郎ならば蝶屋敷に一度訪れている。そのときの炭治郎の表情を見るかぎり、義勇に授けた対処法は功を奏したと思っていたのだけれど。

 とはいえ、冨岡さんの天然ドジっ子っぷりは油断ができませんからね。またなにか素っ頓狂な悩みごとでしょうか?

 少し不安を覚えつつ、それでもいつものように笑みを浮かべ聞いたしのぶに、義勇はわずかに視線を逸らせて前回は世話になったと礼を述べてきた。照れてでもいるのだろうか。
「お礼を言われるということは、あの頓珍漢な悩み事は解決したってことでしょうか。良かったですね。ご用はそれだけですね、ではさようなら」
「……相談がある」

 残念。また頭痛を覚える問診にならなければいいんですが……。

「それで? 今日はどのような悩みがおありなんですか?」
「……炭治郎が、俺のことを好きすぎる」

 帰れ。
 そう言わなかった自分を、誰か褒めてほしい。笑みが消えるぐらいは許されてもいいと思う。

 一瞬で真顔になったしのぶに、義勇が無表情のままで慌てている。それがわかるぐらいには付き合いも長くなったけれど、それでも解せぬ。この男、本当にいったいなにを考えているのか。
「その、今は俺も、炭治郎への想いが恋だと自覚している。炭治郎とも以前より深く想い合えていると思うのだが……だがやはり、俺が思う以上に、炭治郎は俺のことが好きすぎるのではないかと……」
「冨岡さん? これは隊士たちの気を塞ぐ悩みを解消し、鬼舞辻討伐の本懐により打ち込めるようにとの、お館様の親心で行っている問診です。それはおわかりですね?」
「無論」
 おろおろとした気配が消えて即答した義勇に、しのぶの蟀谷にピキリと青筋が浮いた。
「でしたら! そんな惚気に貴重な時間を使っていないで稽古なりなんなりしたらいかがですか!!」
 しのぶの剣幕に、義勇がビクリと肩をはねさせる。しかし、義勇もここで引けないのだろう。すぐに真剣な顔をすると口を開いた。
「聞け、胡蝶。炭治郎を初めて抱いたときに……」
「冨岡さん、そういうお話は男友達との酒の席ででもしていただけますかぁ? あ、すいません。冨岡さんにはそんなお友達は一人もいらっしゃいませんでしたね。うっかりです」
 義勇の端正な顔が、スンっとなんとも言えない表情になった。それを目の笑っていない笑顔で見やりつつ、しのぶは、ただの惚気だったら殴りますよと言い置き、深く溜息をついたのだった。


 俺は衆道の経験はなかったが、初めての挿入時は、慣らしたとしても痛みや圧迫感を覚えるだろうことぐらいはわかる。炭治郎に痛みを与えるのは嫌だったから、できるだけゆっくり挿入するつもりで力を抜けと言ったのだが……

「はぁ、まったく力む様子がなくすんなりと挿入できたと」
 こくりと頷き、義勇は少し眉を曇らせた。
「一瞬、もしかして炭治郎は男同士の交合に慣れているのかと、その、不甲斐ないことだが炭治郎を疑ってしまった。正真正銘、俺が炭治郎の最初で最後の男だというのに」
「最初はともかく最後はまだわかりませんけどね」
 にこっと笑って言ってやれば、義勇がピシリと硬直した。
 ついイラッとして雑ぜ返してしまったけれど、これじゃ話が進まない。しかたなく、あの炭治郎くんが冨岡さん以外に懸想するわけないじゃないですかと、言ってやる。まったく炭治郎のこととなるとこの男はポンコツまっしぐらだ。

「それで? 続きをどうぞ」

 全部炭治郎の胎に収めて大丈夫かと聞いたら、とろけるような愛らしい顔で炭治郎は義勇さんが言ったとおりだと笑ったんだ。義勇さんに言われたとおりに力を抜いたら痛くなかったし気持ちいいと……。たまらなく可愛かったが……しかし、いくら力を抜けと言われたからといって、自分の意思でああいうときに完全に脱力などできるものだろうか。

「冨岡さんが小振りだったからじゃないんですか?」
「そんなことはないっ! 炭治郎もいつだって満足してくれている!!」
「あ、そういうのいいですから」

 ふむ、と、しのぶは小さく首をかしげた。
「たしかに衝撃があれば反射的に力んでしまうものですが……」
「だから、炭治郎は俺のことが好きすぎるんだと言っている」
 憮然とした顔をして見せてはいるが、声にどこか自慢げな響きを感じるのは気のせいだろうか。
「炭治郎はいつもそうだ。胸を弄ってやったときも最初は擽ったがっていたが、すぐに気持ちが好くなると俺が言ったら、次の瞬間には背を仰け反らせるほど感じ入っていた。慣れれば陰茎に触れなくとも達することができるようになると教えたら、次の夜にはもう俺を受け入れ揺すぶられるだけで達していたからな」
「こういうときだけ饒舌なのは嫌がらせですかぁ? 医療行為の一環ですから私は気にしませんけれど、若い女性の前で閨のことを自慢げに語るなんて神経を疑われますよ? あ、冨岡さんは女友達もいらっしゃいませんでしたね。またまたうっかりです」
 言葉を失った義勇は無視して、しのぶはさらに首をひねった。
 たしかに炭治郎の反応は、義勇の言葉への全幅の信頼や恋情がもたらしているように思える。義勇が言うなら、そうなるのが当然だと、脳や体が判断するのだろうか。

 ちょっと調べてみたいような、稀有な反応ではありますけど……それよりも。

「それで、冨岡さんはなにが心配なんですか? 炭治郎くんの反応に悩んでらっしゃるんですよね? ですが、むしろ楽しんでらっしゃるように思いますけど?」
 しのぶが聞くと、義勇は小さく視線を泳がせた。言い出しにくいことなのだろうか。

 今さら照れたりためらわれたりされても、正直、イラッとするんですけど?

「いや……いつもは優しく抱いてやるようにしているのだが、その、たまに箍(たが)が外れることもあって……」

 まさかとは思うのだが。それはさすがにないだろうと、俺も思いはするんだが。炭治郎は俺のことが好きすぎるものだから。もしかしたらということもあるかもしれないと。

「昨夜、子種を注ぐときに、つい、俺の子を孕めと言ってしまったんだが……」
「帰れ」