Let it bittersweet
まぎれもなく本心だと言うのに照れ隠しみたいなセリフだ……ツンデレか俺は!
まあ恥ずかしいのは本当なんだけども。
「はいはい照れなくても大丈夫だよ、銀さんちゃんと考えてきてるから」
宥めるような調子なのがむかつく。でも言い返せなかった。銀さんがなんの躊躇いもなく僕の右手を取って歩き出したから。
「……………………」
ここは昼間の往来で、普通に通行人もいて、そんな中で手を繋いで歩いてる男二人って、ツッコミどころ満載だというのに、僕は何も言えなくなってしまった。
「なんで黙るんだよ」
「正直そこをつっこまれると辛いです」
「そう言われても、黙って歩いてるのも俺的には辛いモノあるんだけど」
「じゃあ質問してもいいですか?」
今更と言われるかもしれないけど確認しておかなくてはいけない重要なことを。
「デートって、本気で言ってんですか」
斜め前をゆく横顔が曇ったように見えた。
「あ、別に嫌じゃないですけど、そういうことじゃなくて…」
僕はただ銀さんが何考えてるのかわかんなくて。僕ばっかり舞い上がってテンパってるような気がして不安で、冗談ではないということを確認したいんだ、ということを全部伝える前に銀さんは言った。
「嫌じゃないのか。そりゃあ良かった」
ふう、と息を吐いた横顔に僕がびっくりしている隙に、彼の顔から真剣みは消えてしまった。
「じゃーんじゃじゃーぁん」
棒読みの効果音とともに銀さんの懐から現れたのは二枚の紙切れ。甘味処のタダ券だった。
「……って糖分かよ!」
「いやァよかったよかった。拒否られたらどうしようかと思ったけど、嫌じゃないんだよね~」
「いやいやいや聞いてないですからそんな話は。つまり僕はあんたの糖分摂取に付き合わされるだけってこと?」
「何言ってんだ、新八」
ここぞとばかりに、繋いだ手に力が込められた。
「正真正銘これはデートだってば」
そこでそんなカッコイイ顔披露されても……。微妙な心境に叩き落された僕に構わず、銀さんは歩く。僕の手を引いて。
騙された気分だ。しかし僕はいったい何を期待してたんだ? あんまり深く考えたくないなぁ。
「なァ新八、神楽とかに買ってく土産、何がいいと思う?」
それでもこの言葉で「まあいいや」と思えてしまう僕は、やっぱり盲目なのかもしれない。ごめんなさい土方さん。
作品名:Let it bittersweet 作家名:綵花