お見舞い申し上げる。
宗矩が身体ごと下肢の方に移動すると、ぐっと上体を沈ませてこちらの足の付け根を舐め上げる。
それは一度では終わらず、唇で食み、唾液を塗りつけて、音を立てて吸い上げられた。
その間も双球はすりすりと擽ぐられ、際どい愛撫にじわじわ募る快感が下腹部に集中していく。
「や、柳生さっ……待っ、」
下穿きを押し上げて勃ち上がる雄越しに、宗矩が獰猛な視線をちらりと投げてくる。
危険な欲が溶けた熱っぽい瞳を細めて笑われると、吐息が敏感になった部位に当たりびくりと足が震えた。
「悦さそうだねェ…。ここ、触ってほしい?」
屹立した雄は下穿きに染みをつくっている。
そこをつ、と指先でなぞられると、律儀に息子は反応し息が詰まった。
が、僅かに触れただけで雄にはそれ以上の刺激は与えられない。
宗矩の手が尻にまわり、縦みつをくいとずらすと窄まりに何やら冷たいものが触れ、塗り広げられていく。
もしやこのまま前に触れない状態で後ろの口をほぐされるのかと思い、左近は重たい手を自身の下腹部に伸ばした。
「おおっと、それはないよ島殿ォ」
のんびりとした口調とは裏腹に、素早く手を絡め取られる。
下穿きから雄を救出することは叶わず、荒い息遣いの中恨みがましく相手を半眼で睨んだ。
「…随分、意地悪ですね…」
「そんなに怖い顔しないでほしいんだけどなァ」
記憶が正しければ、優しくするから云々と宣っていたはずだが…
間に受けたわけではないにせよ、この男の方便は適当すぎる。
頭を持ち上げていることすらままならず、左近は投げやり気味にぼすっと枕に後頭部を埋めた。
そんなこちらに、強烈な色香を孕んだ微笑が向けられ、指先が後腔に潜り込んでくる。
「んっ…」
「ーー心配しないでよ」
普段は耳に心地よい低い声が、妖艶に鼓膜を叩く。
「時間をかけて、汗を流せばいいさ」
軟膏の助けがあるものの、どうにもならない異物感に左近は息を吐きながら目を閉じた。
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「……あれ?」
自分の声で、微睡から引き上げられる。
またもやいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
状況を把握しようとしたとき、視界にぬっと影が落ちた。
「あれ、じゃないよねェ…?」
地を這う呪詛のような声に身が強張る。
横になっているこちらの顔の横にしゃがみ込んで、至近距離で見下ろしてくる大男がいた。
近すぎて視線の逃げ場がなく、左近はたらりと冷や汗を滲ませつつ限りなく人の良い笑顔を浮かべる。
「…もしかして俺……寝ました?」
「目覚めっていうのは眠りからしか得られないんだよォ」
垂れ目が印象的な目元はにこやかに笑みを象っているが、明らかに空気が不穏だ。
見れば乱されていた衣服はきちんとされており、諸々の処理を一人でしてくれていたことは明白で。
「島殿だけイッちゃっておじさん置いてけぼりだからね。臨戦態勢に突入してた柳生さんの宗矩くんの前で、無防備に助平な尻と寝顔晒してくれるなんて、生殺しもいいところだと思わない?」
……諸々の処理の中には、宗矩くんの処理のほうも含まれているようだ。
「揺さぶっても鼻摘んでも起きないんだから……何も情事の最中に疲れてますって全身で宣言しなくてもいいのにさァ」
「…それは、すみませんね」
そもそも合意の上ではなかったのだが、哀愁を漂わせてくだを巻き項垂れている姿を前に、罪悪感が煽られてつい謝罪が出てしまった。
「……で?体調はどうなの?」
「あ……そういえば大分いいみたいですよ」
訊ねられてから己に意識を向けてみれば、気怠さが嘘のように消失している。熱も下がったようだ。
恐らく発熱が原因で節々に影響が出ていたのだろう。
額に置かれた手拭いを取り、顔の真上で屈み込んでいた相手をどかして起き上がってみる。
背中は少々痛むが、すっかり快復した。
宗矩はこちらの顔色を見るなり、安堵半分呆れ半分といった溜息を零す。
「…さっきも言ったけど、少しは自分を労わったらどうだい?島殿が潰れたら、それこそ石田殿は立ち行かなくなる」
「そこまで柔じゃないですよ、うちの殿は」
「どうだかねェ…。まあ、それはそれとして、元気になったんなら今度は拙者にご褒美ってことでーー」
言いながら当然のように上着を脱ぎはじめる宗矩を、左近は片手を挙げて制する。
きょとんとこちらを見つめる男に、真面目な面持ちで告げた。
「腹減ってるんで、駄目です」
「……嘘ォ」
項垂れを通り越してその場で蹲る宗矩に、左近は声を上げて笑った。
fin.
作品名:お見舞い申し上げる。 作家名:緋鴉